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石井隆監督、映画にこだわり続けた鬼才逝く

「作るからには映画でありたい。映画ならではのものを作りたい。テレビでもインターネットでもない映画。今もそんな思いでいる僕は絶滅危惧種なんでしょうね」

自嘲ではない。すごみを感じた。2013年の「フィギュアなあなた」のころに記者が聞いた言葉だが、石井隆という鬼才の全作品歴を通じての決意表明とも読める。訃報を聞いて、あの時の石井の照れたような表情の奥の揺るぎない確信を思い出した。

団塊の世代は撮影所への道がほとんど閉ざされていた。映画監督志望だった石井も早大在学中に日活の撮影現場でアルバイトをするが、挫折。生活のために劇画を描き始め、名美というファム・ファタル(運命の女)を主人公とした「天使のはらわた」で名声を得る。

にっかつがロマンポルノとして「天使のはらわた」を映画化したのは僥倖(ぎょうこう)だった。シリーズ2作目「天使のはらわた・赤い教室」(79年)で脚本家デビュー。以来、劇画のかたわらに多数の脚本を執筆。「天使のはらわた・赤い眩暈」(88年)で念願の初メガホンをとる。助監督経験のない監督はまだ珍しかった。

「死んでもいい」(92年)はそんな石井の映画への思いが凝縮した傑作だった。三角関係の男女が破滅に向かう物語を、淡々とした日常の描写を積み重ねながら、現代の神話のような悲劇に昇華する。冒頭の大月駅の出会いのシーンで女が開く赤い傘、女が男を追ってきた東京の運河のシーンでの木道に響く靴音は、今も目と耳に残る。「俳優の芝居がセリフの行間をどんどん膨らませていった」と石井はうれしそうに語った。

制作中に製作会社のディレクターズ・カンパニーが倒産するという困難を乗り越えてこの代表作を撮った石井だが、その後も逆風は吹いた。「GONIN」(95年)で念願のバイオレンス・アクションを撮り、世界的に注目されたものの、松竹経営陣の内紛のあおりでシリーズは第2作で中断。04年に「花と蛇」で復活するまで苦難の時期が続いた。

その間も映画への情熱はついえなかった。「GONIN」シリーズの続編の脚本はその時々の旬のスターを想定して、何パターンも書いた。それは19年ぶりに「GONIN サーガ」(15年)として実った。

「フィギュアなあなた」も小品でありながら、美少女フィギュアという現代的な題材から夢幻的なスペクタクルを引き出した。「劇画ブームが終わった時、もうおまえはいらないよと言われた気がした。その心情が主人公に反映している」と語りながら、「映画でしかできないことを俳優、スタッフ一丸となってやった」と振り返った。その瞳は「死んでもいい」のころと変わっていなかった。

(編集委員 古賀重樹)

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