開かれたグラウンドをつくる 人生の豊かさの一助に

シーズンオフを利用し帰国した大きな目的が、4月に神戸市西区に完成した「バサラヴィレッジグリーン」(BVG)を見ることだった。僕の母校である滝川二高時代の仲間とともにSDGs(持続可能な開発目標)を意識して造ったグラウンドである。
人工芝のピッチの地中には雨水をためる空間があり、水を循環させながら芝の表面温度を下げるシステムを採用した。これなら電力消費を避けられるし、ためた水は災害時に地域住民の生活用水として使うことも可能だという。
照明は照度の均一性に配慮したもので、無駄に明るすぎることなく、CO2削減にもつながっている。僕が運営に参画するバサラ兵庫のクラブハウスも併設され、将来Jリーグ入りを目指す僕たちの拠点ともなる。
自前のグラウンドを造りたいと考えたのは、ヨーロッパで見た風景を日本でも描いてみたいと思ったからだ。例えば、ドイツではアマチュアクラブの練習場にもカフェやレストランがあり、町の人々が集い、時にサッカーに興じている。スタジアムだけでなくグラウンドも交流の場として存在し、生活の一部になっている。
それはまさにスポーツ、サッカー文化の懐の深さの表れであり、同時にスポーツが市民の人生の(金銭的なものではない)豊かさを形づくる一端になっていると思った。
日本ではそういうスポーツ施設は少ない。グラウンドはあっても使用者が制限されていたり、開かれた場所という印象に乏しい。競技者のための限られた空間という感じだ。だったら自分たちで、と完成させたのがBVGなのだ。
6月16日には兵庫県の斎藤元彦知事がBVGを訪問してくれ、話をする機会があった。近隣の農家さんやレストランの方々とも意見交換ができた。今後、そうやって地元の人たちが交流できる場所として発展させたい。そのためにはBVGを事業としても成功させなければ、僕らの夢はかなったといえないのだろう。
今まで僕は、グラウンド建設についても、バサラ兵庫についても、あまり表立って活動をしてこなかった。今回自分がいることで安心し、信頼してくれる人たちの存在を知ることができた。
6月下旬にスペインへ戻り、カルタヘナの自宅を引き払った後、ドイツを訪ねた。以前お世話になったマインツのGMに「元気かシンジ! まだ現役なのか?」と真顔で言われてしまった。
フランクフルトでは長谷部誠さんが「しばらくオカのプレー見ていないなぁ」と寂しそうに言ってくれた。
すでに欧州のプレシーズンが始まった。カルタヘナを退団した僕はまだ所属先が決まっていない。現実の厳しさを痛感する季節だ。尽きない焦燥を抱えながら「自分はできる。やるべきことがある」と鼓舞しながら自主トレを続けていく。

サッカー元日本代表、岡崎慎司選手の連載です。FCカルタヘナでのこと、日本代表への思い、サッカー選手として日々感じていることを綴ったコラムです。