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環境問題でなく 企業経営そのもの 貴田守亮EY Japan会長兼CEO

脱炭素社会 創る

監査・税務、コンサルティングなどを手がけるEY Japan(東京・千代田)は2025年に二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。出張削減や再生可能エネルギー導入で達成する。一方、クライアント企業には経営戦略の立案や数値目標の設定で脱炭素実現を支援する。貴田守亮会長兼最高経営責任者(CEO)は経営者の変化を実感していると話す。

意識に変化、トップダウンで加速

地球温暖化を防ぐための京都議定書が採択された1997年当時から、パリ協定が合意された2015年ごろまで、企業はCSR(企業の社会的責任)活動の一環で気候変動対策に動いている例が多かった。まず企業のCSR担当が「社長、こうやらないといけませんよ」と脱炭素の必要性を経営者に持ちかけていた。それがここ数年、トップ自らが脱炭素に関連した文献やシンポジウムに触れる機会も増え、無視できない経営課題となってきた。トップダウンで脱炭素に取り組む動きが加速している。

世界の経営者らが集まる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも、政府と企業双方のチームワークで地球環境を改善していく必要があるとの考え方が示された。企業活動のみならず社会全体、より広範囲なステークホルダー(利害関係者)に対する責任感が醸成されてきている。金融業界を皮切りに、製造業やサービス業の各業界で脱炭素への意識は大きく変わっている。アジア太平洋地域、とりわけ日本企業の関心が高まり、そのスピード感も増している。

クライアントを訪問すると、ガバナンス(企業統治)の観点から気候変動対策の目標をどう設定するか、ベンダー(取引先業者)を含めCO2排出量の情報をどう得るか、脱炭素など非財務情報をどう開示するか、悩みは多種多様だ。

在り方変える契機に

当初は企業の存続にかかわるとして、石油など化石燃料を取り扱う企業の危機感が強かった。次に社会貢献がイメージしやすい医薬品などに広がり、現在は業種にかかわらず検討が進んでいる。脱炭素はガバナンスや企業の在り方を変える契機になっている。

脱炭素に関するKPI(重要業績評価指標)の設定について相談してきたクライアントがコンサルティングの過程で企業戦略そのものの練り直しが必要だと認識し、改めて戦略立案を依頼してきた例もある。例えば脱炭素で自社製品が売れないとなった際、企業の関心は環境問題ではなく企業経営そのものになる。脱炭素は経営会議のアジェンダ(議題)に取り上げられるようになった。

クライアントへの支援を強化するため、1月に「SDGsカーボンニュートラル支援オフィス」を設置した。カーボンニュートラルに精通した専門人材を集め、25年6月末までに200人体制にする。監査、税務、戦略・M&A(合併・買収)、コンサルティングの4領域で横断的なチームを作った。戦略を立案し、それに沿った実行をDX(デジタルトランスフォーメーション)とあわせて提案する。非財務情報の開示などでも企業ニーズを把握し、新組織がワンストップで課題解決に取り組む。

25年にネットゼロへ

一方で自社の取り組みも加速している。EYは「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」というパーパス(存在意義)を全世界で掲げている。EY Japanは20年7月にLTV推進室を設置し、21年7月にはLTVビジョンを発表した。LTVとはロングタームバリュー(長期的価値)を指し、サステナビリティー(持続可能性)と同じような意味で使っている。

世界経済フォーラム国際ビジネス評議会の指標の枠組みに沿っており、LTVにはガバナンス原則、地球環境保護、最良の人材、社会的価値創出の4テーマがある。脱炭素は地球環境保護の一環だが、単にCO2排出量を削減するだけで達成できるとは考えていない。社会格差の是正などを含め4項目すべてが達成されないと、LTVも達成できない関係にある。ガバナンスでは企業の不正を防ぎ、次世代を担う後継者をどう選ぶかといった課題もある。人材については女性の登用、LGBT(性的少数者)への配慮に取り組んでいる。

EY全体では20年6月期にカーボンニュートラルをオフセットとリムーバルによって達成し、21年6月期はカーボンネガティブも実現した。出張時のCO2排出量を算出する社内ツールを、クライアントにも活用してもらえるよう提供を始めた。25年のネットゼロを目標に掲げており、脱炭素実現に向け取り組みを一段と進める。

出張時の排出量「見える化」、削減に寄与


 EYはグローバルで2020年度にカーボンニュートラルを達成済みだ。コロナ禍に伴い、EY内部で海外と行き来する出張回数が大きく減ったことが寄与した。足りない部分は排出量取引によるオフセット、植林によるリムーバルで目標をクリアした。脱炭素のコンサルティングが増えるなか「おたくはどうなのという声があったことも理由の一つ」(EY Japanの滝沢徳也リージョナル・アカウンツ・リーダー)だった。
 25年までのネットゼロを目標に出張時のCO2排出量35%削減(19年度比)を推し進める。その目玉となるのが出張時の排出量を「見える化」するツール。EY JapanのCO2排出量は8~9割が出張、残りがオフィスから生じる。このツールで海外出張時の飛行距離などに基づきプロジェクトごとにCO2を推計できる。
 排出量は航空券の手配など自社で予約した場合に算出できる。クライアントがEY社員の出張費を負担した場合は把握できないが「ニーズは高く、外部に広く提供していく方向で準備を進めている」。貴田守亮会長兼CEOはこう明かす。
 同社は18年、東京・千代田にある「東京ミッドタウン日比谷」に移転するにあたり、オフィス内のペーパーレス化に取り組んできた。オフィス稼働率を計算し、複合機で使う紙、ウオーターサーバーやコーヒーサーバーの紙コップなど紙製品の使用量と再使用率を算出。ごみの分別をきめ細かに変え、リサイクル率を引き上げる。
 21年4月からはオフィス内の使用電力量の一部を再生可能エネルギー(グリーン電力)に置き換えた。三井不動産が提供するテナント向けグリーン電力適用サービスを活用し、環境価値が付与された電力を使っている。21年度中に調達するグリーン電力は41万㌔㍗時になる見込みだ。地方でもグリーン電力調達を視野に検討している。
 ペーパーレス化の進展に伴って証書類の保管などで利用が急増しているクラウドサービスでも、CO2排出量を算出できるベンダーを使う意向だ。値段が多少高くなったとしても脱炭素に寄与するサービスを選ぶ。購買先は脱炭素に加え人権への配慮やガバナンスも含め選定していく。「25年のネットゼロ達成には、そういった判断の積み重ねが大切になってくる」(滝沢氏)と考えている。
 本社オフィス内には「EY wavespace Tokyo」と呼ぶスタジオを構え、21年7月に拡張した。コロナ禍でクライアント向けにオンラインのセミナーやイベントが増えている。

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