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高校野球、知的障害ある生徒も 夢の甲子園へ一歩

編集委員 篠山正幸

「甲子園 夢 プロジェクト」の第1回練習会で、キャッチボールをする生徒ら=共同

知的障害のある生徒も硬式野球に取り組み、甲子園を目指そう。そんな呼びかけのもと、東京で行われた3月27日の練習会に、11人が参加した。遠路、京都府や愛知県から駆けつけた生徒も。甲子園に憧れる気持ちが、ひしひしと伝わってくる練習会となった。

呼びかけたのは東京都立青鳥(せいちょう)特別支援学校で教鞭(きょうべん)をとる久保田浩司教諭(55)。3月6日、知的障害者に練習の機会などを提供する「甲子園 夢 プロジェクト」の記者発表を行った。この時点では教諭自身、生徒が集まるかどうか、確信はなかった。

ところが……。6日夜、早速電話が鳴った。個人の携帯番号をあえて添えてネットに出してもらった記事を、生徒の保護者が見て連絡してきたのだった。「こういう機会を待ち望んでいました」。同じ年ごろの生徒たちは硬式野球部がある高校に進めば、当たり前に部活ができる。だが、知的障害のある生徒が通う特別支援学校で、硬式野球部を持つ学校はほとんどない。

野球が好きでも、あきらめるほかなかった生徒や保護者が、全国にどれだけいることか。その後、連日のように鳴った電話の呼び出し音が、生徒たちの行き場のなかった野球への思いを物語っていた。

当初予定していた高校のグラウンドが、新型コロナウイルスの感染予防のため、使えなくなり、都内の屋内練習場を確保した。指導したのは久保田教諭のほか、同教諭がクラブチーム「YBC柏」を指導していたときに知り合った元ロッテ投手、荻野忠寛さんら。

指導する元ロッテの荻野さん㊧。打撃練習では荻野さんがほぼ正規の距離から投げた=共同

ウオーミングアップ、キャッチボールのあと、打撃練習に移った。手でぽんと上げたボールをネットめがけて打つ「ティー打撃」に、荻野さんが投げる球も打った。初めて硬球に触る生徒もいたが、基本を身につけるとみんなめきめきとうまくなった。キャッチボールの距離が伸びて、目を輝かす生徒たち……。

甲子園を目指す、というと雲をつかむような話に聞こえるが、道が閉ざされているわけではない。特別支援学校でも、全日制高校と同じ手続きをとれば、日本高等学校野球連盟(高野連)に加盟できる。春や夏の全国大会につながる地方大会に出場できる、ということだ。

障害者のチームが高校の地方大会に出場した例としては1982、83年、沖縄県大会に出場した北城ろう学校の例があるという。また鹿児島高等特別支援学校が野球部を設けて、高野連に加盟。他校との連合チームとして、2016年に初めて夏の大会に出場している。

硬式野球はバックネットや練習時の防球ネット、捕手の防具など、ソフトボールや軟式とは違う装備、用具が必要になる。硬式野球は危ないのでは、という漠然とした決めつけもあって、特別支援学校で親しむ機会は限られてきた。

だが、赴任先の特別支援学校のソフトボールチームを都大会で14度優勝に導くなどの指導経験がある久保田教諭は、スポーツの練習やプレー中にけがをする確率は「健常者と変わらない」という確信を得ている。

久保田教諭はクラブチーム「YBC柏」での監督経験など、硬式野球の指導者としても実績を積んできた(YBC柏監督当時)

いずれは特別支援学校でも硬式野球に取り組み、生徒たちが甲子園という目標を持てるようにしたい、という構想を、教諭になって以来34年間温め続けてきた。そして踏み出した最初の一歩。手応えはあった。

練習会に参加した生徒の保護者から、メールが届いた。「『プロの球は速くて、なかなか打てなかったよー! 先生たちみんなに、上手だと褒められたよ!』など、とても興奮しながら、話していました……この様な機会をつくってくださったことにとても感謝しています」

やっぱりやってよかった、と思うと同時に、久保田教諭は重責を感じている。「これから続けていくことが大事」

今回、室内練習場の2時間、2万6千円の賃料は自腹を切った。会場が手当てできなかった、といって生徒たちをがっかりさせるわけにはいかなかった。

だが、これではこの先続かない。これまでの教員生活のなかで、いろいろな活動に携わってきた。そのなかで身にしみたのが、どんなに素晴らしく、生徒のためになる活動でも、生徒自身、保護者、教諭の誰かに無理がかかる活動は決して長続きしない、ということだ。

ボールやバットなどの用具を含め、費用負担をどうするか、京阪神地区やその他、各地の生徒が地元で取り組めるようにする方法はないか。困難な課題ばかりだが、生徒たちの熱い思いを知った今、立ち止まるわけにはいかない、と久保田教諭は決意を新たにしている。

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