プロ選手に戻れた気分(岡崎慎司)

8月19日、ベルギー1部リーグのシントトロイデンに加入した。翌20日のリーグ戦で先発フル出場し、チームの今季初勝利に貢献できた。
昨季限りでスペイン2部リーグのカルタヘナとの契約が終了し、移籍先を探していた僕は8月8日からシントトロイデンの練習に参加していた。それまでいくつかのクラブに練習参加を打診したものの実現できなかった。昨季の出場実績の少なさと36歳という年齢もネックになっていたに違いない。そういうなかで、シントトロイデンが受け入れてくれた。
とはいえ、既にシーズンが開幕しているチームへの加入に確証はない。それでも「実際にプレーを見てもらえたら」という思いがあり、挑戦する意味はあると考えた。幸いというか、思った以上に身体が動いた。
「お前は長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)になれるよ。次の長谷部だ」
練習参加4日目くらいのことだ。ドイツ人のベルント・ホラーバッハ監督が驚いた様子で声をかけてくれた。「年齢の割に身体が動いて、フィットしていることに驚いている」と。
入団契約を済ませて迎えた初戦。僕が意識したのは「走り切る」ということ。FWとして最前線に立つ僕がチームの守備、プレスのスイッチを入れた。
シーズン開幕から約1カ月間、勝利に恵まれていないチームには自信が欠けていると感じていた。選手はナーバスになり、ミスも増える。だから僕は、とにかくボールを追いかけ続ける。ボールを奪われても素早い切り替えで、相手から余裕を奪う。そういう基本を心がけた。それが必要なことだと思えたのも僕の経験だし、それがあるからこそ、自信をもって、遂行できた。
結果、チーム内にピリッとした空気をもたらし、17分の先制点をチームで守り、初勝利を手にした。次の試合もフル出場し2連勝。正直ホッとしている。
ここ数年間、個の能力で打開できる選手が優先される環境の中で戦ってきた。今の監督は得点だけがFWの価値ではないと考えているようで「点を取らなくちゃとプレッシャーを感じすぎるな」と言ってくれる。僕をチームに必要な選手だと判断してくれているのがうれしい。
スペイン時代、プレーのクオリティーで勝負しようと考えたこともあったけれど、今は多少クオリティーが下がっても、基本は走って走って、周りのために身体を張って、というプレーにまずは集中しようと思っている。それが今の僕にできることだと。できることを全力でやり続け、チームの状況を改善し、自分のゴールに結び付けたい。
週末の試合に向けて、トレーニングする。やっと、プロサッカー選手に戻れた気分だ。
(シントトロイデン所属)

サッカー元日本代表、岡崎慎司選手の連載です。FCカルタヘナでのこと、日本代表への思い、サッカー選手として日々感じていることを綴ったコラムです。