[社説]東証は上場企業の経営改革を強く促せ

上場企業の約半数の株価が解散価値を下回り、上場に値しないとみなされている。そんな異常な状況が日本の株式市場の今の姿だ。東京証券取引所には、上場企業が自らの低い評価に危機感を持ち、株価を上げる経営改革に取り組むよう強く促してもらいたい。
東証は昨年4月、市場の区分をプライム、スタンダード、グロースの3つに再編した。再編後の課題を検証する有識者会議の議論を踏まえ、東証はこのほど2つの対応策を公表した。
まず、最上位のプライムで流通株式の時価総額が100億円以上などとする基準に届かなくても上場を維持する「経過措置」の期限の明確化だ。昨年4月を起点に3年で終え、1年の改善期間で達成できなければ上場廃止にする。
私たちは経過措置の導入に反対し、速やかに打ち切るべきだと訴えてきた。実質4年に猶予を区切るのは当然だ。これでも長すぎるとの声もあり、対象企業には前倒しの達成を求めてほしい。
プライムで269社ある経過措置企業の合計時価総額は、市場全体ではわずかな規模だ。上場基準は満たしたものの、株価が低迷する大企業の改革が欠かせない。
2つ目として、東証は全上場企業に対し、自社の株価評価を議論し、改善に向けた取り組みを開示するよう求める。中でも株価が解散価値を下回る企業には開示を強く要請するという。
株価が帳簿上の解散価値である1株純資産を下回るのは、企業が資本コスト(投資家の期待リターン)を超える収益を達成できていないからだ。東証が、米欧企業に見劣りする資本収益性の向上に正面から取り組むのは歓迎したい。解散価値を下回る企業については開示を義務化すべきだ。
株価の向上へ、企業は低採算事業の売却や撤退を検討してほしい。ため込んだ現預金は人材・設備投資など成長投資に回し、使い切れない分は配当や自社株買いで株主に還元してもらいたい。
東証は改善計画の開示要請にとどめ、その後は企業の自律的な行動に委ねるという。一方で市場関係者には、解散価値を継続的に下回るプライム企業をスタンダードに移したり、東証株価指数から外したりする案が出ている。
市場運営者である東証には、投資家のために上場企業の質を改善する責務がある。強制力を持つ措置を排除すべきではない。