強者相手に増す闘争心 ロッテ・美馬学(上)

フリーエージェント(FA)権という「特権」を行使した者には、活躍して当たり前という重圧がかかる。昨季、プロ野球楽天からロッテに移籍した美馬学(34)はそんな立場をものともせず、チーム唯一の2桁勝利を挙げた。その強さはどこから来るのか。
強大なものをみると、闘争心が倍加するらしい。楽天時代、2013年の日本シリーズ。エースは田中将大だったが、美馬の出番をみると、監督の星野仙一が田中と同様の比重で、命運を懸けていたことがわかる。1勝1敗で迎えた第3戦、杉内俊哉に投げ勝つ。3勝3敗で迎えた最終戦も、杉内との2度目の対決を制した。天下分け目の2戦をものにした投手に、シリーズ最高殊勲選手賞(MVP)が贈られたのは当然だった。
美馬と杉内。キャリアは段違いだった。当時12年目の杉内は通算126勝で、年俸5億円(推定)。こちらはプロ3年目、通算16勝で年俸3100万円(同)。これは老舗と新興というチーム同士の〝体格差〟の象徴でもあった。
「誰も僕には期待していないから、楽しんでやろうと思った」と、あっけらかんと振り返る。だが、並の神経の持ち主なら、おじけづいても不思議はなかった。この年5月の交流戦で巨人打線のえじきになっていた。これという決め球のない投手が、少しでも投げ間違えたらどうなるか……。
だが、そんな記憶を消し去ったように高橋由伸、阿部慎之助らが並ぶ重量打線にストライクを投げ込む。第3戦は阿部の打球を足に受けて六回途中で降板するまで無四球無失点。第7戦は4四死球を与えたものの、逃げはしなかった。6回被安打1、無失点。
のるかそるかの段になると、ますます強気になれる。その特質は早い時期に備わっていた。
茨城・藤代高で指導した持丸修一(現専大松戸高監督)は1度だけ、こっぴどく叱った記憶がある。関東大会の東海大甲府戦で走者一、二塁からのバントを間に合わない三塁に投げた。ベンチに戻ると「なんで間に合わないところに投げた」。持丸自身、やりすぎたと思うくらいのけんまくだったが、萎縮するどころか、けろっと立ち直った。
「ああいう場面で一層強気になれる。何百人と選手をみてきたが、あんなに気の強い選手はいなかった」。高校球界の名指導者で、教え子に上沢直之(日本ハム)や高橋礼(ソフトバンク)らがいる持丸がそう話す。
そんな特性が発揮された日本シリーズ。あの映像を目にすることが、昨年来増えた。コロナ禍で開幕が延期になったプロ野球空白期に、いわゆる回顧モノ企画がテレビなどで流されたからだ。
「あの映像をみても怖いだけ。あ、ミスったっていう球がファウルになったりとか、こんなんでよく自信を持って投げていたな、と」。8年前の自分に学ぶことは「ない」と即答するほど、技術的には未熟だった。だが、それを補うものを持っていたことになる。
昨季も、優勝したソフトバンクから5勝を挙げた。強いものに、めっぽう強い。=敬称略
(篠山正幸)