「触る」文化の豊かさを探る 国立民族学博物館で展覧会
文化の風

触って体感するアート作品を紹介する展覧会「ユニバーサル・ミュージアム さわる!〝触〟の大博覧会」が国立民族学博物館(大阪府吹田市)で11月30日まで開かれている。約280の出展作品すべてに触れることができる異色の美術展だ。他人やモノとの接触回避を迫られるコロナ禍の中で「触れる」意味を再考し、障害など様々な垣根を越えた「ユニバーサル(普遍的)で皆が楽しめる博物館」を追究する。
視覚偏重に疑義
導入部の暗闇に立つのは「耳なし芳一」の木像「てざわりの旅」。制作したのは美術作家の石川智弥と彫刻家の古屋祥子のアートユニット「わたる」だ。芳一像の背面の床には経典の文字が光で表され足跡のように輝いている。木像をなでると、体の一部だけ別の素材でできていることに初めて気づく。「文字は視覚。それがはがれ落ち、全身の感覚を研ぎ澄ませた芳一が会場へ導く」。実行委員長を務める全盲の文化人類学者、広瀬浩二郎准教授はこう解説する。
視覚以外の感覚に集中できるよう、会場内は安全性を確保した上で薄暗くしてある。普段なら手を触れないよう注意書きがある彫刻や絵画に手を伸ばし、そっとなぞる。ひんやり、ほんわか。つるつる、ざらざら。手触りの意外な多様さに驚かされる。
広瀬准教授は研究者や博物館・美術館関係者、アーティストらと「ユニバーサル・ミュージアム研究会」を結成。単なる障害者対応や弱者支援とは異なる立場から視覚偏重の現代社会に疑義を呈し、触覚をはじめ感覚の多様性を訴える活動を長年展開してきた。
集大成といえる今回の展覧会は昨年秋に開催予定だったがコロナ禍を受けて1年延期。「非接触社会」が到来する中、感染防止対策を徹底し実現にこぎ着けた。

趣旨に賛同した出展者は約50。「触」を楽しみ、その意味を考えようと工夫を凝らした。「貝塚の樹」は福島県南相馬市の縄文遺跡を舞台に「木」をテーマとした立体壁画。海から陸へと続く土層、そこに暮らす人々が木や砂、刺しゅうなど様々な素材で表され、古代と未来をつなぐ木の存在を指先で確かめることができる。企画制作者の歴史復元画作家、安芸早穂子は「人と木がどのようなダイナミックな関係を結んできたのか、特に子供たちに感じてもらいたい」と期待する。
「かたちの合成from両手」は触ることで生まれる対話や表現の可能性を探る作品。左右に穴が開いた和紙の袋に右手と左手を差し込み、中に入れた2つの陶製の造形物を触って頭の中で1つに「合成」してもらう。「正解があるわけではない。人によって合成のやり方も、その表し方も様々だ」と制作した美術家、前川紘士は語る。
誰でも楽しめるミュージアム
埋蔵文化財の修理を手掛ける堀江武史は、両手を上げたポーズの土偶のレプリカが色とりどりの服をまとって並ぶ「服を土偶に」を出展した。堀江は「考古遺物はただ見るだけでは理解しにくい。手に取れば作り手の気持ちにつながることを多くの人に体験してもらいたい」と話す。
吉田憲司館長によると、海外では「ユニバーサル・ミュージアム」といえば大英博物館など世界を俯瞰(ふかん)するミュージアムを指す。だが「日本では誰でも楽しめる、誰一人取り残さないミュージアムという意味が定着しつつある。今展覧会のタイトルは、日本発の概念を世界に発信し言葉の用い方までも変えようとする強い熱意の表れだ」と強調する。
(編集委員 竹内義治)

コラム「関西タイムライン」は関西2府4県(大阪、兵庫、京都、滋賀、奈良、和歌山)の現在・過去・未来を深掘りします。経済の意外な一面、注目の人物や街の噂、魅力的な食や関西弁、伝統芸能から最新アート、スポーツまで多彩な話題をお届けします。