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保険の力で防・減災 矢継ぎ早に商品創出 船曳真一郎・三井住友海上火災保険社長

脱炭素社会 創る

三井住友海上火災保険は2030年度の二酸化炭素(CO2)排出量を19年度比半減、40年度にカーボンニュートラル(実質ゼロ)にする目標を掲げる。近年、地球温暖化による大規模自然災害の多発で損害保険金の支払額が急増。防災・減災に役立つ商品・サービスを矢継ぎ早に投入している。船曳真一郎社長は「脱炭素社会へのスムーズな移行のためにリスクをとる」と力説。インパクト投資による社会課題解決にも乗り出した。

温暖化で災害多発、支払額3倍に

気候変動による気温上昇や降水量増加に伴い、自然災害の規模や被害額は急拡大しており、損害保険業界を取り巻く環境は激変している。国内損害保険業界の風水災による保険金支払額(日本損害保険協会調べ)上位10件のうち、7件が10年以降に発生。18年の台風21号では1兆円を超えるなど19年度までの10年間の自然災害に起因する保険金支払額は、その前の10年間の約3倍に急増した。

日本のみならず、海外でも同じように保険金支払額が膨らんでいる。こうした傾向で将来を見立てると、損害保険事業が持続性を欠くものになりかねないとの危機感を持っている。自然災害リスクを引き受ける火災保険は業界全体で20年度まで11年連続の赤字だった。当社も保険料を上げざるを得なかった。

どうすれば自然災害による被害を減らすことができるのか。それを考えて行動することが必要だ。同時に、保険金をただ支払うだけではなく、どうしたら被害に遭わずに済むか。被災しても影響を最小限にしたり災害後の復旧・回復をいかにスムーズにしたりすることができるかという視点が求められる。

排出量削減促す特約も

21年4月、経営企画部に「気候変動対策チーム」を設けた。①商品サービス②マーケット戦略③資産運用④自社の脱炭素化⑤リスク分析⑥海外事業――の6つのタスクフォースがある。100人を超えるメンバーが部門横断で携わっており、21年だけでもかなりの数の新しい商品やサービスを生み出した。

21年8月にリリースした企業向け火災保険の「カーボンニュートラルサポート特約」は対策チームの大きな成果の一つだ。建物や工場の事故発生後の復旧にあたり、CO2排出量削減に資する設備を新たに導入する際の追加費用を補償する。

保険には原状回復の原則があるが、この特約はこれからの時代に必要なものに置き換える「ビルド・バック・ベター」(創造的復興)の考え方を取り入れた。従来の延長線上で改善していく発想ではこうした商品は生まれない。他社にはない特約として、すでに100社超から問い合わせをいただいた。

グループ会社のMS&ADインターリスク総研(東京・千代田)は企業の脱炭素化をワンストップで支援するコンサルティングサービスを21年7月に始めた。洪水や高潮など自然災害による被害額を予測するサービスにも着手。自然災害を90㍍四方の精度で分析し、2100年まで5年刻みで予測しつつ財務への影響も概算できる。

対策に全社一丸の効果

「グリーン電力証書安定供給支援保険」は、太陽光や風力などの発電所が災害で停止した場合に、証書の発行事業者が代わりのグリーン電力に切り替える際の追加費用を補償する。

損害保険データを活用した被害推定や産学連携による水災リスクの事前予測など「損害保険データ×AIによる新たな防災支援サービス」を開発中で、23年中の商用化をめざしている。降雨量や河川の水位、当社の保険契約の事故、人流といった各種データに基づき、災害時に最適な住民避難を支援しようと、複数の自治体で実証実験を重ねている。また、水災時に自治体が住民に罹災(りさい)証明書を迅速に発行できるよう、顧客の同意を得たうえで当社の損害調査情報を自治体に提供する支援サービスにも乗り出した。

気候変動対策チームは保険会社にとって重大なテーマをきっかけに、会社全体を一丸にする役割を果たした。気候変動対策に限らず、SDGs(持続可能な開発目標)など社会課題の解決に広く取り組まなければならない。4月には「サステナビリティ推進チーム」と名称を変更し、150人規模に増員する予定だ。自分たちのミッション(使命)を広げたいと社員が自主的・主体的に考えられるようになったことは大きな成果だ。

インパクト投資、案件見極め社会に貢献


 「脱炭素社会へのスムーズな移行のためにリスクをとるのが保険会社の存在意義」。三井住友海上火災保険の船曳真一郎社長は強調する。力を入れるのがインパクト投資だ。経済的なリターンの獲得に加え、投資を通じて社会課題の解決を図る。
 21年12月に、あいおいニッセイ同和損保、三井住友海上あいおい生命、三井住友海上プライマリー生命と共同で、スイスの資産運用会社LGTキャピタルパートナーズを通じて合計5000万㌦(約58億円)のインパクトファンドを組成した。うち一つは気候変動対策、ヘルスケア、教育、包摂的な成長をテーマに投資する。もう一つは気候変動対策に特化した米TPGのファンドだ。気候変動関連のビジネスや技術に投資し、リターンと脱炭素化という「インパクト」の創出をめざす。
 22年1月にはLGT社と共同で米ニューヨーク州にMSRキャピタルパートナーズを設立している。「すでにあるファンドに投資するだけではなく、自ら案件を見極める力をつけていきたい」と話す。
 宮城県東松島市の再生可能エネルギーの発電事業会社にも3月中に出資する。電力コンサルティング会社のまち未来製作所(横浜市)、一般社団法人東松島みらいとし機構(HOPE、宮城県東松島市)などと共同で、早ければ4月にも太陽光発電事業を始める。水災、風災、落雷といった災害対策の効果について実証実験する。得られたデータやノウハウを蓄積し、再生エネ事業の保険引き受けや新商品・サービスの開発に生かすという。
 自社の脱炭素化も進める。19年度のCO2排出量は約5万5000㌧。約70%がオフィスやデータセンターで使う電力、約20%が社有車のガソリン使用による排出だ。30年度に19年度比で半減、40年度にはカーボンニュートラルの達成(スコープ1、2)を目標に掲げる。
 21年10月には、グループ各社が入居する東京住友ツインビルディング西館(東京・中央)の使用電力を再生エネに切り替えている。まち未来製作所と、住友商事子会社のサミットエナジー(東京・千代田)を通じて福島県会津若松市の風力発電所、山形県酒田市のバイオマス発電所の電気を調達している。再生エネ導入は30年度60%、50年度100%をめざす。
 約4000台ある社有車のうち21年10月末時点で約700台が電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)。25年度までにすべて切り替える予定だ。

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