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大阪府立大発、宇宙行き 小型衛星開発の系譜

時を刻む 

超小型衛星「ひろがり」を搭載したロケットと国際宇宙ステーションのドッキングを見守る大阪府立大のメンバー。ロケットの背景は地球(2月22日、堺市)

大阪府立大学の小型宇宙機システム研究センター(堺市)は学部1年生から宇宙プロジェクトに参加できる全国でも珍しい組織だ。現在も室蘭工業大学(北海道室蘭市)と共同開発した超小型衛星「ひろがり」の運用と実験を手がける。衛星には先輩から引き継いだ技術やノウハウが詰まっており、今回の経験も次の計画に生かされる。

3月14日、ひろがりが国際宇宙ステーションから宇宙空間に放出され、地球の周回軌道に乗った。1日に7、8回は大阪上空を通過するので、学生が交代で通信データを確認している。

衛星は縦横10センチメートル、高さ20センチメートルで重さ2・4キログラム。折り紙の着想で畳んだプラスチック板を展開して将来の太陽光パネル搭載につなげる実験や、アマチュア無線帯での高効率な高速データ通信技術の実証が主なミッションだ。

実は衛星放出から1週間、信号を受信できなかった。「原因の可能性を一つ一つつぶしていきながら、心が折れそうになった」と、4年生の森瀧瑞希さん。幸い通信は回復したが、様々な企業やOBの協力を得て準備に5年もかけたプロジェクトだけにメンバーの心労は相当なものだった。

大阪府大が工学部航空工学科を航空宇宙工学科に改称したのは1993年。ロケット国産化の流れに沿い研究開発や人材育成を充実する狙いがあった。

「まいど1号」転機

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が東大阪市の中小企業などを指導して開発した小型衛星「まいど1号」への協力が大きな転機となる。2004年に府大とJAXAが包括的協力協定を結び、翌年に工学研究科に小型宇宙機システム研究センターを設立。09年の打ち上げに向けて、学生が衛星本体のシステム設計や太陽センサーの開発、運用に積極的に加わった。

この時のJAXAや企業との縁も活用してセンターは独自に超小型衛星「こすもず」を14年に開発し、宇宙空間でのリチウムイオン蓄電装置の実証実験を実施して衛星の開発、製造、運用の経験を蓄えた。

センター長の小木曽望教授は「構想段階から運用まで学生が中心で、教員はサポート役なのがセンターの特徴」と話す。現在のメンバーは修士課程も含め約80人。機械系が多いが、電子物理、化学、情報工学専攻の学生もいる。

2号機「ひろがり」の事業着手は16年9月。学生が開発、試験、運用に加え、資金集めでもOBなどを巡って協力を依頼した。学部1年から関わる修士2年の山田将史さんは「最初は実際にどうやってモノを作るかなど、慣れるのに時間がかかった」と振り返る。

大阪府立大学小型宇宙機システム研究センターが開発した超小型衛星「ひろがり」の模型を持つメンバー(㊨が小木曽望教授)

特にコロナ禍では冷や汗をかいた。衛星を打ち上げる米航空宇宙局(NASA)の安全審査会が20年7月中旬なのに、最初の緊急事態宣言で4月上旬から5月末まで大学に入構できなくなった。実機に触って試験を進める大事な時期だ。

中小やOBが応援

「間に合わないかもしれないと思ったことは何度もあったが、この時は本当にまずいと感じた」と修士1年の仲瀬寛輝さん。宣言明けをにらんで1日ずつスケジュールを組み直し、最後の4、5日はみんなで研究室にこもって作業を続けたという。

実現には周囲の応援も大きかった。まいど1号以来の関係がある東大阪の中小企業のほか、振動試験ではIMV、衛星のアルマイト処理では中金(京都府久御山町)などが親身になって協力した。企業で宇宙機の開発を担当するOBも、リアルタイムで助言してくれた。

現在、衛星の運用は順調で、世界中のアマチュア無線家から受信報告が届く。アマチュア無線帯での高速通信などで第1段階のミッションを達成し、より高度な実験を準備中。「運用していると設計の改善案が次々出てくる。次の衛星に向けてノウハウを蓄えたい」と、仲瀬さんは先を見る。

昨年末からは3号機の検討に入った。センターの将来について小木曽教授は「日本でも宇宙ビジネスが盛んになり小型衛星への需要も高まっている。リードできる開発や人材育成ができれば」と抱負を語る。

JAXA、三菱電機NEC川崎重工業、IHIなどで航空宇宙に関わるOBは多い。機械系の企業に就職する予定の山田さんは「宇宙産業が成長しているので将来的に関わる可能性は十分ある。ここでの経験を生かしたい」と話す。

構想段階から運用まで関わった経験は大きな自信になる。大阪から宇宙へ――その航路は以前より確かに縮まっている。

(編集委員 宮内禎一)

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