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日本企業の決意を発信 COP26から世界に

NIKKEI脱炭素プロジェクト特別セミナー

日本経済新聞社は11月、英北部グラスゴーで開催されていた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の会場内で、NIKKEI脱炭素プロジェクト特別セミナー「先進企業と考えるカーボンゼロ社会への道」を開いた。現地と日本をオンラインで結び、プロジェクト参画企業トップらが二酸化炭素(CO2)の排出量削減をはじめ、脱炭素社会を実現するための決意を英語で世界にライブ配信した。

2部構成でライブ配信

セミナーは日本政府が設営したジャパンパビリオンを拠点に、ビデオメッセージ、オンライン登壇、リアル登壇を組み合わせたオンラインイベントの形式で実施した。

時差の関係で日本時間午後7時30分の開始となったが、日本から多くの視聴者を集めた。開催国である英国、ドイツやロシアといった欧州に加え、米国、チリなど米州からも視聴があった。

アジア・太平洋地域では中国やインド、韓国、シンガポール、マレーシア、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、アラブ首長国連邦(UAE)などからアクセスがあり、脱炭素社会の実現をめざす日本企業の動向に世界の関心が高いことをうかがわせた。

NIKKEI脱炭素委員会の委員長でもある東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授が司会を務めた。山口壮環境相のあいさつに続き、第1部として企業トップら8社の代表者がリレー形式で自社のプレゼンテーションに臨んだ。第2部では3社がパネル方式の討議に参加した。

高村氏は終了後「脱炭素をテーマに日本企業のトップらが自らの言葉、しかも英語で、世界にメッセージを発信する良い機会になったのでは」と手応えを示した。

気候変動対策の加速促す 東京大学未来ビジョン研究センター教授 高村ゆかり氏

このプロジェクトには15の日本企業が参加している。専門家委員会のほかユース団体も交え議論を重ねている。中間宣言をまとめ、日本経済新聞やフィナンシャル・タイムズに掲載した。参加企業と専門家は気候変動対策を2030年に向け加速し、50年に向けカーボンニュートラルを達成することをめざしている。

日本企業が世界の視聴者に決意やビジョン、戦略、脱炭素社会の実現にどう貢献できるか、表明する絶好の機会として活用してもらいたい。

対策こそ構造変革のカギ 環境相 山口壮氏

気候変動は人類の存在を揺るがす危機だ。世界中が脱炭素に向かっている。日本は2030年度に温暖化ガス46%削減(13年度比)の目標を掲げ、さらに高みをめざすと宣言。これは50年の実質ゼロに整合している。

目標達成には全セクターの取り組みが必要で大きな挑戦だが、気候変動対策は経済成長にマイナスではない。むしろ産業構造変革のカギとして社会、経済を劇的に変える革新的な投資を促し、生産性を向上させ、堅ろうな成長につながり得る。

リレーメッセージ

アジアから取り組み発信 サントリーホールディングス社長 新浪剛史氏

2050年のネットゼロを世界で達成するためにはアジアでの取り組みが重要だ。アジアは経済の発展段階や政策に違いがある。また、新型コロナウイルスと戦う中、経済回復が重要な課題だ。

欧米主導になりがちな世界のルールづくりの議論にもっと参画しなければならない。アジアの現実を考慮せずにルールが成立してしまい、対応が困難になってしまうようでは、グローバルでの脱炭素化は実現できない。

当社は50年ネットゼロに向け明確な30年目標を設定、確実な達成へと活動している。実行に関してステークホルダーへの透明性は欠かせない。進捗を共有し、第三者機関から評価を受けながら、活動を見直しつつ実行することで、社会からの信用を獲得していく。

達成は容易ではない。サプライチェーンのパートナーと協働し、技術やノウハウを支援することで、強いバリューチェーンをつくり上げる。誰ひとり取り残さない。これこそSDGsの精神だ。

アジア諸国の脱炭素化に向け、日本は推進に貢献していきたい。アジアの現状にあった議論を主導するため、ユーラシアグループと「サステナビリティリーダーズカウンシル」を立ち上げた。持続可能性の確立におけるアジアの重要性をグローバルに発信していく。

森林経営や木造建築が柱 住友林業社長 光吉敏郎氏

再生可能な自然資本である森林、そこから生まれる木材、木造建築がCO2を吸収、固定、削減し、脱炭素社会実現につながることを話したい。

2010年にインドネシア西カリマンタンの熱帯泥炭地で、環境保全と林業を両立した約15万㌶の植林事業に着手。面積の2割以下を生産林、残りを保護林として管理している。泥炭地の適切な水位管理によりCO2の排出を抑制している。

管理技術とともに地上測量データを蓄積してきた。森林の炭素固定量を正確に測定。質の高い炭素クレジットの創出を促し、それが評価される仕組みづくりに取り組む。

各業界が技術革新により排出の積極削減に取り組んでいるが、完全なカーボンフリーには追加策が必要だろう。当社は森林由来の炭素クレジット創出を通じて貢献する。

オーストラリアのメルボルンでは6階以上が木造の15階建てネットゼロカーボンのオフィスビルを着工。排出されるCO2は建築物の使用時が省エネ・創エネ、炭素クレジットによるオフセットなどで実質ゼロ。建築時も木材の炭素固定で鉄筋コンクリート造に比べ4割の削減効果がある。

森林経営、製造・流通、木造建築、再利用のバリューチェーンを通じた炭素循環により、脱炭素化に貢献していく。

問題解決のパートナーに 日本ガイシ社長 小林茂氏

グループ環境ビジョンの一環で今後10年間、研究開発に積極投資する。うち8割あは脱炭素とデジタル社会に配分。2050年にはこれらの事業で売り上げ80%をめざす。

産業界の脱炭素を支援するソリューションを提供していく。再生可能エネルギーの浸透で、長時間の電力貯蔵に関する議論が先進国で活発だ。再生エネと当社のナトリウム硫黄(NAS)電池を組み合わせることで、脱炭素社会の実現に大きく貢献できる。

CO2の回収・利用・貯留(CCUS)でも当社の技術は重要な役割を担うだろう。独自開発したCO2を分離するセラミック膜により将来、空気中からCO2の直接回収も期待される。

日揮グローバル、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と協力し、米テキサス州でCO2を分離・回収する技術の実証実験を進めている。地球環境保全のため、共通の目標を達成すべく協力することは、気候変動対応で最も重要だと考えている。

将来の主流エネルギー源が水素、メタン、メタノール、他の代替燃料のいずれであれ、製品を提供する準備はできている。セラミックのスペシャリストとして企業のソリューションパートナーとなり、ともにカーボンニュートラル実現をめざす。

多様な選択肢が欠かせず JERA取締役副社長執行役員 奥田久栄氏

当社がカーボンニュートラルな世界において果たす役割について言及したい。エネルギーシステムも集中化が進んでいくと考えられる。産業集積地、工業地帯など需要のある地域では再生可能エネルギーだけですべてを賄うことはできない。

こうした問題を解決するため、様々な資源を活用し、大規模再生エネやCO2の出ない火力発電所の電源を使っていく。また、発電に必要となるアンモニアや水素のサプライチェーンの構築が欠かせない。こうした手法により、需給と脱炭素のバランスを日本全体でしっかりとる。段階的だが着実にCO2排出量を低減していきたい。

100%再生エネ化について、そのアイデアを否定するものではない。もし可能であれば、それが望ましいシナリオだ。

ただ、脱炭素化に向けて国、地域によって多様な選択肢を残しておく必要がある。再生エネに関しては、地理的にあまり増やせない地域も存在する。アンモニアや水素を燃料とした「ゼロエミッション火力」も選択肢になると考えている。

アンモニア、水素を火力発電所で混焼することは、既存の発電所をそのまま使える利点がある。ゼロエミッション火力は自然条件によって不安定になりがちな再生エネを補完することもできる。

森林拡大で吸収量増やす 王子ホールディングス取締役専務グループ経営委員コーポレートガバナンス本部長 磯野裕之氏

世界中で58万㌶に及ぶ森を持ち、うち生産林が45万㌶を占めている。年間94万㌧のCO2を純吸収している。森林管理では、例えばそこにある木を伐採し、枝を落とし日が通るようにする。より背の低い植物が太陽の光を得て生育できる。それによって、森林全体の健全性が維持される。

当社はCO2排出量の70%削減(2018年比)を30年の目標とし、50年までのネットゼロをめざしている。これをどのように実現していくのか。温暖化ガス排出の削減に加え、森林面積拡大により純吸収量を増やす。サステナブルな森林管理を実施していく。

森林管理とは、単に脱炭素化を進めるだけではない。例えば、水源涵養(かんよう、地下水の水質浄化)であり、生物多様性を維持するものでもある。この地球ができる限り緑で維持されるためにも必要だ。

適切な品種の植林を行っていくことを含め、様々な管理方法を向上させる必要がある。植林地の場所や肥料の選択なども重要になる。

さらに、58万㌶の森林を拡大していく意図も持っている。ブラジル、オセアニア、東南アジア、そして日本で様々なオペレーションに取り組んでいるが、既存の地域に付属する周辺の地域で植林を進めていきたい。

「1.5度」達成を前倒しで EY Japanリージョナル・アカウンツ・リーダー 滝沢徳也氏

当社には監査、税務、コンサルティング、ストラテジー・アンド・トランザクションの4つのサービスラインがあり、それぞれ専門性を生かしてクライアントの脱炭素化を支援している。自らもCO2削減も進め、2020年にカーボンニュートラル、21年にはカーボンネガティブを実現した。これからの目標として25年のカーボンネットゼロを掲げている。

カーボンニュートラルとネットゼロを区別している。カーボンニュートラルは単に排出したCO2を相殺する形だが、ネットゼロでは科学的な計算に基づき絶対量として排出量を削減する。パリ協定と一致した1・5度目標を25年に前倒しで達成したいと考えている。

このテーマにはクライアント支援を通じても取り組んでいく。昨年、LTV(ロングタームバリュー=長期的価値)推進室を新設した。LTVはサステナビリティーと同じ意味合いだ。4つのサービスラインはサステナビリティーに関する取り組み、サービスを個別に提供してきたが、統合窓口をつくることにした。

今年はSDGsカーボンニュートラル支援オフィス、サステナビリティ開示推進室を設けた。クライアントと当社の観点の両方で取り組むことで、より良い社会の構築をめざす。

移行戦略、金融軸に支援 みずほフィナンシャルグループ執行役サステナブル・ビジネス推進統括 牛窪恭彦氏

ネットゼロは日本企業にとって大きな目標となっている。長期のビジネスプランを用意し、新たな移行戦略につなげる取り組みが進む中、トランジションファイナンスが大きな役割を果たす。重要なミッションはクライアントがトランジションのストーリーを実行できるようにすることだ。

ネットゼロに向けた移行は産業構造の根本的な変化となる。温暖化ガスがコストや債務として認識されることで、各企業は事業ポートフォリオの見直しを迫られる。そうした状況で必要となる事業構造の変革について、トランジションファイナンスを通じて手助けし、支えていく。

当行はクライアントである企業のバランスシートを両側からサポートする。金融本来の資金調達機能に加えて産業アナリストや環境分析、企業戦略部門が非金融分野でも支援する。2050年までのネットゼロを戦略の中核に据えている。

移行のストーリーは極めて重要だが、どれほど説得力があるかが課題となる。科学的な根拠を持ったベンチマーキングが重要だ。日本では、具体的なロードマップをつくることにより、トランジションファイナンスのベンチマークも確立しようとしている。ロードマップの策定が今後、加速要因となる。

より野心的な目標設定も 三井不動産取締役専務執行役員 浜本渉氏

脱炭素実現はこれからの社会にとって最も重要な課題だ。この認識に基づき、気候変動に関する国際的なイニシアチブに加入している。温暖化ガス排出量を2030年度までに30%削減、50年度までにネットゼロとする目標だが、1・5度目標の達成に貢献するため、より野心的な目標を掲げることを検討中だ。

当社グループは東京電力と包括協定を締結し、グリーン電力の調達を始めた。30年度までに首都圏に所有する全施設をグリーン電力化し、テナントにも供給していく。

ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスといった省エネ・創エネを徹底した施設の建設を推し進め、運用時の温暖化ガス排出を削減する。

建築時の排出削減手法としては、木造建築物の普及がある。鉄骨造、鉄筋コンクリート造に比べ大幅削減できる。老朽化した鉄筋コンクリート造を新築同様によみがえらせるリファイニング建築は新築に比べ温暖化ガスを70%削減できる。

温暖化ガス排出量でみると、当社グループの排出は12%にすぎず、残り88%はサプライチェーンから排出されている。入居者、購入者、建設会社、素材メーカーなど幅広い取引先と協業を進め、サプライチェーン全体で削減に取り組む。

※三井不動産は特別セミナー実施後の11月24日に新たなグループ行動計画を発表。2030年度の温暖化ガス排出量の削減目標を40%に引き上げた。首都圏の全施設としていたグリーン電力化を国内の全施設に拡大することなども計画に盛り込んだ。

パネルディスカッション


三井住友海上火災保険経営企画部気候変動対策チーム課長 浦島裕子氏
afterFITチーフコミュニケーションオフィサー 前田雄大氏
アセットマネジメントOne社長 菅野暁氏

前例なき変革に挑む

浦島 世界各地で森林火災やハリケーンなど異常気象が頻発している。日本でも2018、19年に自然災害に関する保険金支払いが1兆円を超えた。脱炭素化に成功しなければ、損害保険の安定した提供が困難になる。

損害保険はリスクソリューションを提供する。今年度に気候変動対策チームを立ち上げた。全社横断の6つのタスクフォースを結成し、脱炭素へと向かうソリューションやサポートを提供している。例えば「カーボンニュートラル特約」では、通常の火災保険が対象としている原状復帰費用の補償だけでなく、脱炭素の設備導入費用も支払う。

また、安定した再生可能エネルギーの開発事業を支えるために、自社での参画も決めた。

高村 保険会社は、保険の引き受けに加えて機関投資家としての役割も重要だ。ネットゼロの実現に向け、大きな貢献ツールになるだろう。

前田 今の延長線上ではカーボンニュートラルはおろか、2030年の46%減すら難しい。脱炭素は前例のない変革だからだ。気候変動対策では理想と現実のギャップに直面する。当社は再生エネ、脱炭素についてコンサルティングを通じて提供し、ギャップを埋める役割を担う。その積み重ねが確かな変化を生み、大きなうねりとなる。

馬場 昨年から今年にかけて日本でもより野心的な転換の兆しが見られるようになってきた。

前田 しかし50年までのカーボンニュートラル達成には、やはり再生エネの設置容量を増やしていかなければ。それが当社の役割だと考える。

菅野 ネットゼロ達成のため昨年12月に始めた「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ」を紹介したい。ネットゼロでよりパフォーマンスが上がる企業を選び、新たなプロダクトを組成。企業価値向上をめざす動きを促し、ネットゼロの目標達成にも寄与する。

投資先への関与、政府との取り組みも進める。例えば、必須開示要件の設定など脱炭素化に向けた事項を充実させる。それを使い、企業を評価する。グローバルに調和されたカーボンプライシング導入も重要だ。各国間でまちまちなため、政府は重要な役割を果たせるはずだ。資本コストの計算に欠かせず、投資家には有益な情報となる。

馬場 投資先への関与では、カーボンプライシングの必要性についてどう説明しているのか。

菅野 CO2を排出する企業は反対するが、拒否し続けることに未来はあるのか。カーボンプライシングは必ず導入される。備えが必要だ。石油危機を例に挙げると、日本企業は技術革新や石油使用の削減で乗り越えられた。技術の活用で対応できるのではないか。

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