手袋外さず音声で歯科カルテ 東和ハイシステムと日立

東和ハイシステムと日立製作所は7日、人工知能(AI)を活用して音声でカルテに入力する歯科向けシステムを開発したと発表した。歯科医らがスマートグラスを装着し、手袋を外すことなく衛生的に電子カルテを作成できる。歯科業務を大幅に効率化できるという。3月上旬に発売する。
東和ハイシステムは歯科医院向けの電子カルテシステムを全国3100の医院に導入している。予約から決済まで一元管理できる特徴がある。今回、日立の音声認識技術や音声処理ソフトを組み合わせ、手での入力が不要となるシステムに仕上げた。歯科向けの音声電子カルテシステムは業界初という。
新たなシステム「Hi Dental Spirit AI-Voice」は歯科医や歯科衛生士がスマートグラスやマイクを装着し、近くに置いたタブレット端末などを経由してホストパソコンとつないで使う。スマートグラスに映す画面で入力内容を確認しながら診療できる。
例えば、「全顎(ぜんがく)」「右上5番」などと発声して入力する部位を選択。その後、軽度歯周病を表す「P1」など約20項目の略称リストから病名を選び、さらに「精密検査」など処置内容の選択へと進む。それぞれの項目を選んだ後、「オッケー」と発声することでパソコン手入力のクリックやエンターキーを押すように操作する。

システムは歯の部位、病名、処置、薬品など約22万の用語やコメントをカバーする。「修正」などと発声すれば誤った書き込み部分を直せるほか、過去の診療データも呼び出せる。患者との会話を音声データとして保存し、後日改めて確認することも可能だ。
「患者は歯科医らに口腔(こうくう)を直接触れられるため、衛生面にとりわけ敏感」(東和ハイシステム)。手での入力のたびに手袋の脱着と手指消毒を繰り返す手間が省けて衛生的なうえ、机上の端末画面に縛られず患者に向き合える。通常、記録要員と2人体制の歯周病検査も1人で済む。
リース方式での提供が中心になる見込み。端末やスマートグラスなど機材を含めたシステム全体として、一般的な開業医だと月額6万〜8万円程度を想定している。すでに一部医院に試験的に導入済みで、まず売上高(2022年9月期は22億円)の3割程度の販売を目指す。
東和ハイシステムの石井滋久代表は「歯科診療の高度化、患者の満足度向上に貢献していきたい」と話す。日立子会社、日立情報通信エンジニアリング(横浜市)の中野俊夫社長は「音声の研究を60年してきた。大規模コールセンターなどで培った技術で歯科のデジタルトランスフォーメーション(DX)に大きく寄与できる」としている。
歯科疾患の放置による医療費膨張を抑えるため、政府は22年に「国民皆歯科健診」の検討を盛り込んだ「骨太の方針」を閣議決定している。東和ハイシステムによると歯科受診者は増加が見込まれるが、新たに受け入れる余力がない医院も多いという。訪問診療など医院外での音声カルテの利用も視野に入れており、業務の効率化を支援する。
(深野尚孝)