秋田・湯沢、雪生かし特産・観光ブランド 事業者ら連携
秋田県内屈指の豪雪地帯・湯沢市でこれまで捨てられてきた雪を地域のブランドづくりに生かす取り組みが動き出した。除雪作業の負担は日々大きく、負のイメージがある雪を特産品づくりや冬の観光誘客に活用する試みだ。若手経営者らが地域を巻き込み、市内の事業者との連携も広がりつつある。

1月下旬の週末。市中心部から車で45分ほどの郊外にある「とことん山キャンプ場」の一角に、貨物輸送に使う20フィートコンテナが置かれていた。市街地より積雪量が多く、重機を使って周りを雪で固めてある。内側には保冷用の雪が蓄えてあった。
コンテナは雪国の人々の暮らしの知恵である雪室の代わりに使う。野菜などを保存する「天然の冷蔵庫」だ。内部は温度が零度ほど、湿度も90%以上になる。凍らずに長期保存できることから、野菜や果物などはゆっくり熟成し甘みが増す。

貯蔵時にコンテナ内を計ると温度は零度ほど、湿度も100%だった。約10社の事業者が集まり、リンゴやミカン、長芋、ネギ、白菜などのほか、コメや味噌、日本酒を貯蔵した。変わり種では茶葉やコーヒー豆、クリ、小豆も試しに入れた。

若手経営者でつくる「秋田・湯沢 雪中貯蔵協会」がこの取り組みの中心にいる。吉村和幸会長によると、白菜やネギなどの野菜は早めに取り出すが、そのほかは4~5月に「蔵出し」を予定する。
野菜や果物、コメ、日本酒は首都圏など雪が珍しい地域の消費者向けにネット販売する計画だ。商品の統一ロゴを作成し、2021年6月に試験販売すると好評だった。今回、市内の事業者に呼びかけ規模を広げた。

観光客誘致にも雪を生かす計画だ。雪国の暮らしに興味を持つインバウンド(訪日外国人)の観光客を増やそうと、湯沢商工会議所や雪中貯蔵協会が連携。湯沢市ビジネス支援センターが支援し、雪と地熱を生かす体験型の周遊観光づくりに乗り出した。
観光庁の補助金を活用した1月下旬のツアーでは、首都圏に住む台湾の人々を対象に体験ツアーを企画。だが、新型コロナウイルスの感染急拡大のため参加者を県内移住者らに急きょ切り替え、日本酒やリンゴなどの雪中貯蔵を体験してもらった。

湯沢市には小安峡温泉など情緒豊かな温泉地が多く、全国的な知名度がある稲庭うどんや伝統工芸品の川連漆器もある。だが、冬場は一部県境をまたぐ国道が積雪の影響で閉鎖されるため、交通のアクセスが悪く積極的に観光客を誘致してこなかった。こうした状況や関係者の意識を変える試みにもなる。
同市では雪が年間100日以上降るシーズンがあり、積雪が2メートル近くに及ぶことも珍しくない。雪は農作物に欠かせない「天からの恵み」である一方、度を超せば農業や人々の暮らしに厄災をもたらす。
「雪を厄介なもの、毎日の除雪は面倒だと思っている人は多い」。雪中貯蔵協会の吉村会長はこう語る。ただ雪国では「雪と共存し、長く付き合っていかなければならない。今後連携を広げ、特産品や観光をアピールする地域のブランドづくりに役立てたい」と強調した。
(磯貝守也)