横浜市の山中竹春市長、問われる財政再建と公約の整合性 - 日本経済新聞
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横浜市の山中竹春市長、問われる財政再建と公約の整合性

横浜市 山中市長就任1年(上)

2021年8月22日、横浜市長選の投開票日。山中竹春市長(49)は約50万票を獲得し、次点に約18万票の大差をつけて圧勝した。無党派層の多くが山中市長に投票し、市内18区のうち17区で最多得票となった。

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、元大学教授で「候補者唯一のコロナ専門家」をアピールする山中市長は「コロナを封じ込める」「市役所が機能していない」などと当時の政権や市政を厳しく批判。コロナ対策に不満を募らせる有権者の心をつかむことに成功した。

しかし、当時から今に至るまで、山中市長のコロナ対策には目新しいもの、独自性のあるものはなかった。市長選の投開票日の新規感染者数は1046人、1年後の22年8月22日の新規感染者数は3938人。「結局、山中市長はコロナ対策の『救世主』ではなかった。誰がやっても同じだった」(市議)

「熱狂」から1年。山中市長を取り巻く環境は静けさの中にある。カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致や、前市長が進めた新しい劇場整備を中止する公約は就任後にすぐ実現した。しかし、その後は目立った動きがなかった。「市長の姿が見えない」と批判して当選した山中市長だったが、就任から1年間、自らの存在感を示す場は少なかった。

山中市長は選挙戦で、75歳以上の敬老パス自己負担、中学3年生までの子ども医療費、出産費用を無料化する「3つのゼロ」に加え、中学校給食の「全員実施」を主な公約に掲げた。しかし、市長として初めて編成した22年度予算にはこうした公約の計上を見送った。

市の試算によると、「3つのゼロ」に必要な財源は、敬老パスで年間15億~69億円、子ども医療費で39億円、出産費用で50億円にものぼる。中学校給食の全員実施はデリバリー方式の弁当に統一するなら約30億円必要だ。

公約実現には巨額の費用がかかるが、市の財政状況は厳しい。市の財政規模に対する借金残高などの割合を示す「将来負担比率」は137.4%(20年度決算)。この比率が高いほど、将来の財政運営が圧迫される。他の政令市は、京都市が193.4%と横浜市を上回るものの、川崎市は122.0%、名古屋市が104.4%、神戸市が61.6%などにとどまる。

2065年度の財政赤字は2000億円――。山中市長が策定した「財政ビジョン」は、このままでは将来確実に財政が破綻すると予測した。高齢化に伴い社会保障経費が増大する一方で、人口減少により市税収入が減る。財政ビジョンは「持続可能な財政」を実現するため、事業の大幅な縮小や廃止で財源を捻出するとした。

山中市長は現在、22~25年度の中期計画案を策定中だ。中期計画は20年先の横浜が目指す都市像を見据え、今後4年間で市政が取り組むべき政策の方向性を示す。中期計画案の中に子ども医療費の無料化など公約の一部実現を盛り込む見通しだ。しかし、財源への明確な説明はまだない。

立憲民主党の推薦を受けて当選した山中市長だが、市議会は選挙戦で対立した自民党と公明党が多数を占める。市議の一人は「安全運転、いや試運転に徹した1年目だが、2年目に入ってようやく独自性を見せ始めた」とみている。

支出を抑える財政再建と支出を伴う公約の実現。政治家として、市長として、その整合性が問われている。

山中市長が就任して8月30日で1年。人口約370万人という全国最大の基礎自治体、横浜市のリーダーとしての責任は重い。山中市政の現在と未来を探った。

(二村俊太郎、近藤パドリック)

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