医薬品の在庫・欠品をAIで削減 調剤薬局向けシステム
調剤薬局向けシステム開発のアサイクル(石川県小松市)は医薬品の需要を予測する人工知能(AI)を搭載した在庫管理・発注システムを開発した。店舗ごとに顧客属性などを踏まえて予測し、発注が必要な医薬品を表示する仕組み。過剰な在庫や欠品を少なくすることで、店舗の効率化を後押しする。

処方箋の指示に基づき調剤し、薬を渡す薬局は全国に約6万店舗ある。欠品を避けることが必要なほか、在庫が多すぎると収益悪化の要因になる。需要に応じた適切な量の発注を支援する在庫管理・発注システムが「ASKAN」だ。2018年度からの実証試験を経て改良し、本格販売にこぎつけた。

過去の販売実績データをAIに学習させ、顧客の属性や季節変動、地域特性などを踏まえて推計する。季節変動とは花粉症の時期に抗アレルギー薬が増えるといった需要だ。需要予測結果と在庫量に基づき、パソコンの画面に発注が必要な医薬品の一覧が表示される。
浅井亨介社長は「導入企業の実績で金額ベースの在庫でおおむね2~5割圧縮できた。ふだんから扱っている薬であれば欠品が大幅に減る」と話す。開発にあたっては石川県工業試験場などの協力を得た。各店舗で初期導入費用と毎月の利用料3万円(税別)程度がかかる。3年後に5000店舗での導入を目指す。
実証試験の段階から導入した1社がドラッグストアを展開するコメヤ薬局(石川県白山市)。まず1店舗に導入した結果、発注業務の効率化や欠品の削減などに効果を上げたことから現在では7店舗に拡大させた。
同社は医薬品について在庫が一定量を下回った段階で発注する基準である「発注点」をもとにしていた。ASKANの効果について担当者は「今の在庫で考えるのでなく、AIが将来の需要に基づいて発注を支援してくれるのが役立つ」と話す。これまでは担当者が店舗の営業が終わってから残業し、発注の業務にあたるケースもあった。
2021年以降、後発薬メーカーの品質不正などを受け、薬の供給が不安定になっており、調剤薬局の在庫管理の手間が増えている。ASKANでは、ある薬の注文ができない場合、同じ成分を含んだ別の薬の候補リストが出てくるなど、薬の切り替えに伴う業務負担の軽減につながる利点もあるという。
アサイクルは2016年設立。情報技術(IT)で調剤薬局の業務効率化を支援しようと創業した。薬のピッキングを支援するシステムなどを手がける。浅井社長の父親が医療機関のレセプト(診療報酬明細書)関連ソフト開発の会社を経営し、そのノウハウを事業に生かしたという。
ASKANについて浅井社長は「ITの活用を通じて薬剤師の在庫管理や発注の業務を減らし、対人業務に注力してもらうことができる」と話す。全国で販路を開拓し、3年後に年商20億円を目指す。
(石黒和宏)
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