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出生率2.95、岡山・奈義町の秘訣「住民参加・少しずつ」

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岡山県北東部にある人口5700人余りの奈義町に全国の自治体関係者の視察が絶えない。2019年の合計特殊出生率が2.95まで回復し、少子化対策の「奇跡のまち」として注目を集める。その具体的な施策をみると、起死回生の目玉を打ち出したわけではなく、地域のニーズを住民参加型の施策に反映し、住民意識を高めながら少しずつ支援策を拡充する取り組みに行き着く。

北海道中富良野町、福岡県大木町、三重県鈴鹿市……。奈義町情報企画課の担当者の10月のスケジュールは全国の自治体や議会から約10件の視察が占める。月に5~10件のペースで事例紹介や施設案内を繰り返す。出生率が3に迫った同町への関心は高い。

同町の対策は高校生の就学支援(年13.5万円)、多子の保育料軽減など20項目以上が並ぶ。在宅の育児支援(月1.5万円)まで幅広い層をカバーする。情報企画課の森安栄次参事は「住民要望を踏まえ10年、20年かけて経済的、精神的な支援を少しずつ増やした結果」と強調する。

3つの機能を持つ地域ぐるみの子育て拠点「なぎチャイルドホーム」が象徴的だ。つどいの広場では子育てアドバイザーを配置し、乳幼児とその親が集って相談や意見交換をする。「気軽に遊びに行ける場所がほしい」という声に応えた。一時預かりの子育てサポート、保護者当番制の自主保育は、いずれも地域の住民が助け合う。

運営は子育て中の母親や一段落したスタッフら住民参加型にして高齢者も関わる。施設がサービスを一方的に提供するのではなく保護者が望むサポートをする。一時的な給付金などにとどまらず支えることで、住民同士のつながりなど安心感を得られる利点も大きい。

同町がこうした取り組みに本腰を入れるのは、合併の是非を問う住民投票で埋没への危惧などから単独町制を決めた02年からだ。人口減への危機感が強まり議員定数削減など改革を断行して1億円以上の予算を捻出。高齢者向け中心から若者・子育て世代向け施策を段階的に拡充し、全施策を人口維持に振り向ける姿勢を明確にした。

子育て支援と並ぶ施策の柱である若者の定住や就労対策では、住宅整備や工業団地への企業誘致を進めた。「ちょっとだけ働きたい」「ちょっとだけ手助けがほしい」という住民と事業者のニーズを結ぶ「しごとコンビニ」事業は全国に先駆けて17年にスタートした。

同事業ではスマホ教室のサポートや農作業など、一時的な業務をマッチングするだけではない。施設の草刈り、アンケート集計といった町の業務を切り出し、行政を効率化しながら、お金が住民に落ちる好循環も生み出している。

各種施策について「どこの自治体でも取り組める」と森安参事。一方で「子育て支援が元気な町につながると理解し、住民全体が応援するマインドをつくるには時間がかかる」と指摘する。奈義町は子育て懇談会などの聞き取りから、住民も担い手として巻き込む仕組み作りを重視する。

移住者が増える同町では21年度に転入者数が転出者数を上回る「転入超過」となったが、高齢者の死亡など自然減は続き、人口減は止まっていない。出生率を大きく回復させた奈義モデル。住民参加を促し、意識改革と施策拡充を着実に進める取り組みは全国のトップランナーとなった今もなお途上だ。(深野尚孝)

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