秋田のラズベリー栽培にICT 需要期狙い出荷探る - 日本経済新聞
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秋田のラズベリー栽培にICT 需要期狙い出荷探る

東北6県 気になる現場

クリスマスケーキなど洋菓子に鮮やかな彩りを添えるラズベリー。甘みや酸味があるキイチゴの一種だ。欧米からの輸入品が圧倒的だが、実は秋田県産が国内で最も出荷量が多い。ただ寒冷地特有の課題もある。こうした地域の課題解決を目指し、情報通信技術(ICT)を活用した産学連携の試みが始まった。

12月半ば、秋田市に隣接する五城目町の山あいでラズベリーを生産する佐々木雄幸さんを訪ねた。農家や菓子店などがメンバーの五城目町キイチゴ研究会で会長を務める生産者のリーダーだ。

農林水産省によると、秋田県内の収穫量は2.4トンと全国最多(2018年)。秋田県立大学の今西弘幸准教授(園芸学)と五城目町の共同研究で、08年に佐々木さんら町内の農家8人が栽培を始めた。現在は能代市や大館市などにも広がり、30人近い生産者が栽培する。

地元洋菓子店のファンも多い。「鮮度がいい。収穫時期は朝とれた果実をその日に使える」。フルーツタルト専門店パティスリーパルテール(潟上市)の斉藤希恵子統括部長はこう話し、開業した11年の夏から洋菓子づくりに生かす。

一方、国内市場に目を転じると、日本で消費されるラズベリーのほとんどは欧米などからの輸入に頼る。国産の需要はあるが出荷量はごくわずかで、海外産の0.3%にも満たない。

佐々木さんにハウスに案内してもらった。長男の一朗さんが主に栽培を管理する。収穫はすでに終わり、現在は本格的な冬の到来に備え果樹の枝を短く刈り込んでいた。

需要はクリスマスを控える12月に高まる。だが寒冷地の秋田では秋に入ると気温がぐっと下がり、収穫量は落ちる。生鮮品は生産者でつくる販売会を通し冷凍品の2倍近い1キロ当たり5200円で販売するが、収穫は11月が限度という。最大の需要期を捉えた収穫・出荷体制が欠かせない。

こうした課題解決を目指し、収穫・出荷時期を12月まで延ばそうと取り組み始めたのが今西准教授とNTT東日本秋田支店だ。

佐々木さんの協力でハウス内にセンサー機器を設置した。温度と湿度、明るさ、果樹を植えた土のうの温度を測り、4種類のデータと生育状況から収穫の適期と収穫量の予測に役立てる。

本格的な計測開始は22年5月以降になる。佐々木さんは外出先でもスマートフォンで日々のデータを確認し、グラフを見てひと目で状況変化を把握できる。今西准教授やNTT東の担当者も共有し、出荷時期の課題解決を探っていく。

生食用のラズベリーは鮮度保持を考えると、日持ちは収穫後3日間という。表皮が薄く傷つきやすいためだ。長く保存しても品質を保てる冷蔵設備も検証する。

高齢化と担い手不足に悩む農業。ICTを使い地域の課題解決につなげようと、新たな試みが本格化する。

(磯貝守也)

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