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秋田県、減塩と地道な戦い 41年ぶり「音頭」刷新

医療や介護なしで暮らせる「健康寿命」日本一を目指し、秋田県が減塩運動に力を入れている。塩分の取りすぎが、がんや脳血管疾患で亡くなるリスクを高めるからだ。県は住民の食生活改善を促す「減塩音頭」の歌詞を41年ぶりに刷新した。高齢化が進むなか、今後も地道な取り組みが欠かせない。

JR秋田駅前で秋田市郊外に向かう路線バスを待っているときだった。土崎地区に住むユーモアたっぷりな86歳男性と話す機会があった。つえをついているが、かくしゃくとしている。「酒は飲まんし、たばこも吸わん。塩分には特に気をつけている。心配は唯一、糖尿病だ。甘党だから」

秋田は酒どころで日本酒の消費量が多い。雪国で保存食の漬物といった塩分過多も加わり、脳卒中など生活習慣病による死亡率が高い。2020年人口動態統計で主な死因をみるとがんが全国1位、脳血管疾患は2位だった。県内を見渡しても、この男性のような高齢者は希少な存在といえる。

全国で最も高齢化が進み、短命県でもある秋田県。その歩みを振り返ると、実に半世紀を超える減塩との長い戦いの歴史がある。

08年の日本食生活学会誌に載った県職員の論文は戦前の1935年(昭和10年)当時、由利町(現由利本荘市)で1日当たりの食塩摂取量が35グラムだったデータを引用している。現在と調査方法が異なり一概に比べられないが、いかに塩分過多の暮らしだったかは容易に想像できる。

「現在の摂取量にたどりつくには、長年の官民を挙げた取り組みが大きい」。県保健師として活動し、現在、秋田大学医学部保健学科で教壇に立つ熊沢由美子講師(地域看護学)はこう指摘する。

重労働と貧しい食生活にあった農村部の女性を対象に戦後、栄養改善が始まった。55年に「動く台所」といわれた栄養指導車(キッチンカー)に保健所の栄養士が乗って各地を訪ねた。61年には生活習慣病対策の方向を定め、1日の塩分摂取の目標を15グラム以下に設定した。

こうした取り組みの延長線上に、県が80年に制作した減塩音頭がある。県民になじみのある民謡「秋田音頭」の歌詞を替え、減塩の必要性を強く呼びかけてきた。

16年の県の調べによると、成人1日当たりの塩分摂取量は平均10.6グラムだった。11年の前回調査に比べ0.5グラム減ったものの、全国平均9.9グラムを上回る。県が掲げる「8.0グラム未満」の目標値にはなお隔たりがある。しかも近年、減少幅が小さくなる傾向にある。

今回の新音頭の狙いは減塩だけではない。野菜や果物に含まれるカリウムは体内のナトリウム排出を助ける。このため歌詞の2番で「野菜・果物摂取」、3番では「健康寿命延伸」をテーマにした。踊りも取り入れ、幅広く食生活の改善を促す。

「耳慣れた減塩という単語を改めて住民の心に届けるためにも、減塩音頭のバージョンアップは意義がある」。熊沢講師はこう指摘し、付け加えた。「年配者にはそれぞれなじんだ味付けがある。誰に向けたメッセージなのか明確にし、あの手この手で工夫して働きかけていくことが大切だ」

行動経済学に「ナッジ」という言葉がある。人々が意思を決めるときの特徴を踏まえ、行動変容を後押しする工夫を表す。熊沢講師は「減塩は古くて新しい課題。こうした手法も効果的に活用すれば、目標値実現に向けもう少し速く時計の針が動くかもしれない」と期待する。

(秋田支局長 磯貝守也)

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