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秋田銀線細工、女性3人が工房 次代に継承目指す

東北6県 気になる現場

地方には時代の風雪に耐え、受け継いできた伝統工芸品がある。秋田県指定の「秋田銀線細工」もその一つだが、後継者が少なく存続が危ぶまれる状況だ。この伝統を次代につなごうと、女性3人が秋田市に工房を立ち上げて約2年。経済界も彼女らの取り組みを後押ししてきた。

ピンセットや指先を使い、渦巻き状に巻き、デザインに合わせ枠にはめ込んでつくる

6月初め、秋田市中心部を流れる旭川沿いの「矢留彫金工房」を訪ねると、3人が黙々と机に向かっていた。2019年8月に立ち上げたこの工房の松橋とし子工房長(58)と、2人の副工房長の小林美穂さん(32)、高橋香澄さん(26)だ。

松橋さんはこの道に入って40年余りのベテラン。県認定工芸士でもある。男社会で閉鎖的といわれる職人の世界で苦労した。だが「親方」が持ついかめしさをみじんも感じさせない。

寡黙で存在感ある松橋さんに、快活で芯の強い小林さんや高橋さんは敬意を払い、創作を支える。工房内には柔らかな音色のBGMが流れ、職人の「縦社会」とは異なるフラットな空間がそこにある。

純銀の特色を生かした繊細な美しさが特長だ

秋田銀線細工は直径0.2ミリメートルほどの細い銀線を2本ほどより合わせ、ロールで圧力をかけて潰し、平らにして形づくる。先の細いピンセットや指先を使い、渦巻き状に巻き、デザインに合わせ枠にはめ込む。純銀の特色を生かした繊細な美しさが特長だ。

その歴史は江戸時代まで大きく遡る。秋田藩には院内(湯沢市)や阿仁(北秋田市)などに鉱山があり、良質な金や銀を産出した。職人らが武具やキセル、かんざしなどをつくった。小林さんらによると、秋田銀線細工と呼ばれるようになったのは戦後。その伝統は昭和から平成、令和に受け継がれてきた。

手先の器用さに加え、根気強さも求められる

松橋さんがこの世界に入った約40年前には十数人の職人がいた。だが現在、「私たちが知る限り県内に7人が残るだけ」と小林さん。高齢化も背景にあるが、販路開拓による所得向上など、若者が魅力を感じる環境を整えてこなかったツケも響いている。

16年から「海外にも通用する工芸品のブランド化」を検討し、3人の思いを全面的に後押ししてきたのが秋田商工会議所だ。秋田銀線細工のデザインコンペ、プロモーション動画の制作、新商品開発のプロジェクトを展開してきた。佐藤裕之副会頭は「こうした伝統工芸が絶えると、地方の産業史や特色も失うことになる」と指摘する。

人材育成に加え、3人がいま大切にしているのが消費者の声だ。「耳を傾け、時代に合ったデザインを採り入れていく必要がある」と高橋さんは強調する。そのため、クラウドファンディングを使って募った資金支援で新たな設備を購入した。

ハレの日に身につける装飾品より、日々の暮らしの中にある秋田銀線細工――。次代につなぐための活路を「日常」に見いだそうとしている。

(秋田支局長 磯貝守也)

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