オリーブの井上誠耕園、生産工程を効率化 農舎を新築

オリーブの栽培や加工販売を手掛ける井上誠耕園(香川県小豆島町)は、果実の品質を判定する選果機や、かんきつ類の貯蔵施設を備えた農舎を新設した。耕作放棄地の活用により栽培面積が広がってきたことから、生産工程を効率化して収量増に対応する。作業の自動化を進めることで、農業の担い手不足解消に向けた一助とする。
井上誠耕園は、果樹の栽培から加工品の生産、販売までを自社で手掛けている。ネットや電話による消費者への直接販売で事業を広げており、これまで流通ルートの開拓や加工生産設備の導入といった、第3次産業化、第2次産業化にも力を入れてきた。

栽培など第1次産業の部分での機能を強化するべく、新たに設けた農舎が10月から稼働を始めた。木造2階建ての設備で延べ床面積は約600平方メートル、総事業費は約1億5000万円。1階部分に作業スペースや貯蔵庫、2階は農作業従事者がシャワーを浴びたり、休憩したりできるようにした。
オリーブの色から傷の有無を判断できる選果機を新たに導入し、自動で品質を判定できるようにした。井上誠耕園はオリーブを手作業で収穫し、これまでは目視で果実の傷を見つけて選別していた。目視で1時間あたり7.5キロを選別していたが、機械では同100キロ対応できるようになるという。作業時間にすれば1シーズンで延べ1000時間削減できる。
自動選果機の導入の背景には、栽培面積の拡大がある。同社は高齢化や人口減を理由に手放された耕作放棄地を買い取り、開墾してオリーブなどを植樹してきた。2007年から取り組み始め、現在の栽培面積は当時の4倍ほどである20ヘクタールまで増えた。20年には60トンのオリーブを収穫しており、21年は80トンを見込んでいる。収穫から搾油するまでの時間を短縮できるため、オイルの酸化を抑えられる。
かんきつ類の貯蔵庫も併設する。井上誠耕園は、みかんや晩柑など14種類の栽培を手掛けており、品種によっては1~4カ月寝かせることで食べごろを迎えるという。温度と湿度を自動で一定に保つことで果実のロスを減らす。これまでは住宅の地下で保存していたが、腐らせてしまうこともあった。

高齢化が進み、農業に関するノウハウが次の世代に継承できなくなっていると井上智博社長は危機感を募らせる。担い手がいなくなってしまえば、小豆島の耕作放棄地は増加に歯止めがかからなくなってしまう。「機械の導入やデータの活用で、『長年の勘』がなくても栽培できるようにならないといけない。農舎の新設を、その一歩としたい」(井上社長)
流通と加工機能を強化することで、同社の売上高は21年5月期には103億円となるなど、10年同期の23億円から着実に増収となってきた。生産機能にもてこ入れすることで農産物を様々な加工品に展開するなど、農業の6次産業化を一層進めていく考えだ。(桜木浩己)