石川の町内会のICT化支援でアプリ開発 薮野繁さん
拓き人 石川から

町内会向けに情報通信技術(ICT)化を支援するアプリ「結ネット」が北陸を中心に広がっている。住民のスマートフォンに情報を届ける電子回覧板の機能を持ち、災害時には安否確認を支援する仕組みで、ソフト開発のシーピーユー(CPU、金沢市)が手掛けている。開発したのは同社のICT事業部長、薮野繁(59)だ。
石川県野々市市の一部の町内会がまず2016年に導入し、その後、同県小松市や金沢市に利用が広がった。さらに富山県、福井県、愛知県などの町内会でも使い出している。「コロナ禍で紙の回覧板の受け取りを拒否される方がいる。その対応に迫られた自治体が多いのも、導入が広がった理由」という。
評価が高いのは町内会の活動の負担軽減につながる点だ。町内会長らは発信した情報をどの住民が読んだかどうかが分かる。行事への出欠依頼や確認もしやすい。災害時にはスマホの画面が「災害モード」に切り替わり、住民は「問題なし」「至急 支援要」などと返信できる。
薮野は金沢市出身。大阪のコンピューター関連の会社に就職し、5年間、ソフトの受託開発の仕事をした。1990年、27歳で Uターンし、CAD(コンピューターによる設計) など建築分野の強みを持つCPUに入社した。「自分でソフトを開発し、全国に売りたい」と思ったからだ。入社後、見積もりソフトなどを手掛けた。
結ネットは町内会という新しい分野だった。「会社や家でパソコンやスマホを使うが、町内会はアナログのまま」でICT化の需要が見込めると考えた。15年、野々市市の友人から町内会活動などを学んだほか、この友人を経由してアプリに興味を持った連合町内会長と知り合った。
連合町内会長からは「もうからないから、やめるということでは困る」とくぎを刺された。薮野が「片道切符の覚悟です」というと、「腹を決めた。うちの町内会で入れる」と約束してくれた。これが導入第1号だ。使い勝手の改善にも協力してくれたほか、普及を後押ししてくれた。今や野々市市内の全町内会が導入する。
結ネットは町内会の要望に対応し、改良を重ねてきた。例えば、金沢市の米泉小学校区の提案で、21年に新成人が成人式に出席するかどうかの確認に使ったほか、新成人がやり取りできる掲示板もつくった。評判がよかったことから、他の小学校区も使う予定という。
「地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)など、結ネットを後押しする要素がそろってきた。これからも地域の方と一緒につくっていきたい」。じわじわと全国に広げていくのが目標だ。=敬称略
(石黒和宏)