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ドイツ総選挙、緑の党の計算(The Economist)

The Economist

ドイツのメルケル首相が9月の連邦議会選挙(総選挙)後に政界を引退することから、各政党はその後継となる首相候補者を擁立した。だが、そこに至るまでの与野党の動きは極めて対照的だ。

ドイツの9月の総選挙では、緑の党の期待の星である40代の女性の共同党首ベーアボック氏(中央)が、勢いを失って久しいCDUのラシェット党首(左)とSPDのショルツ財務相を相手に戦うことになる=AP

緑の党、40歳の女性共同党首を首相候補に

今回党として初めて首相候補を立てることになった緑の党は、4月19日午前11時ぴったりにアンナレーナ・ベーアボック連邦議会議員の選出を発表した。40歳の女性、ベーアボック氏は共同党首のロベルト・ハベック氏と共にマイナーな存在だった緑の党を政権を狙える地位にまで引き上げた功労者だ。ハベック氏もその同氏の出馬に同意した。

選出プロセスは円滑で、選出結果の発表方法も明快だった。ベーアボック氏は6月の党大会で正式な承認を受けるが、もはやそれは形式的な意味しか持たない。

一方、与党保守党のメルケル首相が属するキリスト教民主同盟(CDU)と南部バイエルン州を地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)は、統一の首相候補者を選ぶのに熾烈(しれつ)な争いを繰り広げた。1週間に及ぶ激しい交渉を経て4月20日、最終的にCSUのゼーダー党首が譲歩し、人気では劣るCDUのラシェット党首を統一候補とすることを決めた。

ラシェット氏は、連立与党内だけでなく外部からも「彼で選挙に勝てるのか」という懐疑の目を向けられた中で選挙戦をスタートする。CDU幹部のカリン・プリーン氏は、選出プロセスは「多くの傷を残した」と嘆くが、傷は癒えると予想している。

連立与党でCDU・CSUに次ぐ第2党のドイツ社会民主党(SPD)は昨年8月、副首相兼財務相のショルツ氏を首相候補に指名した。従って、これでドイツの全主要政党の首相候補が出そろったことになる。

現職の首相が出馬しない注目の選挙

メルケル首相の退任は、ドイツ連邦共和国が戦後誕生して以来、初めて現職の首相が出馬しない選挙が実施されることを意味する。また、この選挙はここ数十年で最も注目されるものになる見通しだ。

どの党もドイツの政治的考え方として極めて重視されている「ミッテ(中道)」の路線を訴え、戦うことになる。

ラシェット氏は今のCDUの政策路線をほぼ踏襲する候補とみられている。同氏はメルケル政権が最も窮地に立たされた2016年末からの難民危機では首相を支え続けたが、パンデミック(新型コロナの世界的流行)対策では首相と激しく対立した。財政についてはCDU正統派の規律重視の考えを持つが、気候変動対策で積極的取り組みを進めることには懐疑的だ。

SPDのショルツ氏は、社会民主主義的な要素を帯びつつも過激なことはしない政治家として自身をアピールしている。ベテランで安心感はあるが、全く面白みに欠けると評される。同氏の最大の課題は、党が一枚岩となって結束できず、支持率低迷を脱却できずにいることだ。

ベーアボック氏には2つの追い風

ベーアボック氏は、18年に緑の党の共同党首に就任するまではほとんど無名の存在で、CDU・CSU、SPDの与党首相候補とは全く異なるタイプの候補だ。緑の党は、彼女には2つの追い風が吹いているとみている。

第一は、16年に及ぶメルケル政権と、この1年のコロナ禍に対する同政権の不手際を何度か目にしてきた国民の多くは変化を求めるようになっている、という点だ。

第二は、中道寄りの政策を掲げて前向きな口調で語るベーアボック氏なら、ドイツを変えていくことに対し人々の支持を集められそうだとみられている点だ。

彼女の首相候補指名受諾演説は快活で、なかなか愛国的だった。ドイツが世界で初めて自転車を発明したことから今回の新型コロナワクチンの開発まで、ドイツの様々なイノベーションをたたえた。その上で「(ドイツには)様々な刷新が必要だ」と語った。

このメッセージは、エネルギッシュな比較的若い女性候補者が、勢いを失って久しい連立与党の年長の男性候補に戦いを挑むという構図が手伝って、一層強く人々に伝わるだろう。

緑の党は、現状にうんざりしている有権者が、ベーアボック氏が政権運営を担った経験が全くない点を逆にプラスと捉えるのではないかと期待している。同党のジャミラ・シェーファー副議長は「彼女こそ今回の挑戦に最もふさわしい」と話す。

緑の党の公約案は、ドイツの気候変動への取り組み強化から財政規律の緩和、増税を原資とした大規模な公共投資の実施など従来の政権とは異なる政策案であふれている。こうした公約とともに緑の党は、幅広い層の有権者の支持を得ようとしている。

具体的には、ベーアボック氏とハベック氏は経済界と関係を築き、ドイツ東部などこれまで同党への支持率が低い地域での支持拡大を訴えてきた。その成果はまちまちだ。

緑の党、既に16州の11州で連立政権

緑の党はかつて乗用車の利用や食についてもうるさく制限しようとした(編集注、添加物や農薬の使用、遺伝子組み換えの反対などを党のモットーとしてきた)。そのため「何でも禁じる党」という不名誉な名称を与えられた過去があり、同党の議員の多くは批判がましい発言は慎重を期して避けている。「我々が変えたいのは個々人ではなく、政治や経済のルールだ」と同党のスヴェン=クリスチャン・キンドラー議員は話す。

緑の党が新しいミッテ(中道)を見つけたと主張するのには根拠がある。ドイツ人は、パンデミックが始まる前は気候変動対策が国民の最大の政治的関心事だとよく言っていた。加えて今は約30%が緑の党に投票してもよいと考えているためだ(世論調査では同党の現在の支持率は約22%と、CDU・CSUと差は数ポイントに縮まっている)。

緑の党は州レベルでは政権与党としての地位を確立している。独16州のうち11州で連立政権の一翼を担っており、州レベルでは様々な大臣職を務め、他のほぼすべての政党と協力関係を築いている。

緑の党と関係が深い環境系シンクタンク、ハインリッヒ・ベル財団のエレン・ユーバーシェア理事長は、緑の党の新しい戦略は、党指導部による党の運営方法にも反映されていると指摘する。ベーアボック氏とハベック氏が昨年、CDUのあの有名な現実主義的要素を取り入れて以来、党内対立や紛糾する党大会は今では過去のものに近い。

ベーアボック氏は先日のインタビューで「得票率が8.9%(17年の総選挙の際の緑の党の数値)では、我々が重視する問題に変化を起こすことはできない」と語った。今や政権奪取が緑の党の最優先課題というわけだ。そのため外交や国防、貿易に関する政策を巡る党内の意見の相違については、公約案はまわりくどい難しい表現で覆い隠している。

緑の党をCDUの最大のライバルだと言うラシェット氏は、ベーアボック氏の経験不足と、同氏が左派の連立政権を誕生させるリスクがある点を強調していくだろう。だがそうした攻撃を自制せざるを得ない事情も抱えている。

緑の党が勝利した場合、ベーアボック氏には連立を組む相手として選択肢が複数あるが、CDU・CSUにとって政権を維持するには緑の党以外、連立を組む相手は現実的に存在しないからだ。しかもCDU・CSUはまだ公約も発表していない。

確かにラシェット氏はこれまで期待を上回る実績を出してきたことで知られる。総選挙までの5カ月間には様々なことも起こりえる。それでもCDUは、メルケル首相退任後も自分たちが続投すべきだと国民を納得させられずにいる。緑の党という強烈なライバルの登場を前に、そう説得することは極めて難しくなっている。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. April 24, 2021 All rights reserved.

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