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[FT]アルジェリアとモロッコ 西サハラ巡り衝突の危機

Financial Times

ガス供給停止の威嚇、独立派武装組織への支援、係争地をめぐる緊張の再燃――。かつて国境紛争で戦火を交えた北アフリカのアルジェリアとモロッコの関係がこの数週間、悪化している。

その象徴の一つとして、アルジェリアのエネルギー相は同国産の天然ガスをモロッコ経由でスペインへ送るパイプラインについて、10月末が期限のモロッコとの契約を更新しないと語った。アルジェリアは同国上空をモロッコの航空機が飛行することも禁止した。

アルジェリアの治安機関は最近、17人を逮捕し、カビリア自己決定運動(MAK)の武力による襲撃計画を阻止したと発表した。パリに本部を置き、先住民のベルベル人が多く住む北部カビリアの自決権を求めるMAKは暴力への関与を全面否定し、平和的な手段に徹していると主張する。

アルジェリアの武装組織の背後にモロッコ?

アルジェリアの治安機関は、同国でテロ組織に指定されているMAKの要員が「シオニストの主体(イスラエル)とアフリカ北部の一国」の支援を受けていたと指摘する。「アフリカ北部の一国」とは、イスラエルと2020年に国交正常化で合意したモロッコを指すと考えられている。

アフリカ北部で国境を接するアルジェリアとモロッコの関係は常に緊張をはらんできたが、係争地の西サハラ地域をめぐる新たな摩擦で完全に崩れた。専門家は、さらにエスカレートする恐れがあると警鐘を鳴らす。

「最大のリスクは読み違いだ」と指摘するのは、シンクタンクの国際危機グループで北アフリカ部門を統括するリカルド・ファビアーニ氏だ。「アルジェリアもモロッコも戦争を起こす気はないが、どちらかが強く出過ぎれば、抑えられないレベルまで緊張が高まる可能性はある。このボタンの掛け違いが西サハラで起きれば軍事上のエスカレーションにつながりかねない。例えば、国境付近で両国が直接、衝突することも考えられる」

住民がまばらな荒野の西サハラは、スペインが撤退した1975年以降、モロッコが大半を支配し、主権を主張している。だが、アルジェリアは西サハラの独立を目指すサハラウィ(西サハラの民)の武装組織「ポリサリオ戦線」に拠点を提供し、支援している。

西サハラの自決権を巡り国連が住民投票を実施する計画は数十年前から前進していない。30年来の停戦は20年11月に崩壊し、ポリサリオ戦線は西サハラにおけるモロッコの拠点に対し、小規模な奇襲や遠距離からの砲撃を再開した。

モロッコが主張する西サハラにおける主権は20年12月、モロッコがイスラエルと国交正常化で合意することと引き換えに当時のトランプ米政権が認めた。これでモロッコの立場は強まった。

西サハラにおけるモロッコの主権を米国が承認

米国の承認を得たモロッコは外交で自己主張を強め、西サハラについて国連の立場を支持する国から米国と同じ転換を引き出そうとしていると専門家は指摘する。ドイツが米国のモロッコ支持を批判すると、同国は首都ラバトのドイツ大使館との関係を凍結し、駐独大使を召還した。

米国の支持とイスラエルとの正常化の合意で、モロッコとアルジェリアの間の均衡が変化したとファビアーニ氏は指摘する。「モロッコはイスラエルとの正常化を巡る取引で、ドローン(無人機)をはじめとするイスラエルの(軍事)技術を入手できるようになった。アルジェリアは、これでモロッコとの力関係が変わってしまうのではないかと恐れている」

アルジェリアは8月、モロッコの国連常駐代表が「勇敢なカビリアの人々はほかの誰よりも自決権の全面享受にふさわしい」と述べたため、同国と断交した。

アルジェリアのテブン大統領は最近、天然ガスのパイプラインに関してはまだ何の決定も下されていないと明かしたが、スペインに約束したガス供給が不足することになれば、液化天然ガス(LNG)の輸送で補う可能性を示唆した。

モロッコはパイプラインからのガスを発電燃料の一部として利用し、通過料も得ている。仮にガスを得られなくなれば「大きな不都合が生まれるが、モロッコはそれに備えてきた」と、英リスク分析会社ベリスク・メープルクロフトのアンソニー・スキナー中東・北アフリカ部長は指摘する。だが、その場合、モロッコは割高なLNGか石炭で不足する発電燃料を穴埋めせざるを得なくなるという。

テブン氏はインタビューで攻撃的な口調を強めた。誰であれアルジェリアを攻撃すれば「生まれてきたことを後悔する羽目になる。我々は(戦いを)やめないからだ」と同氏は言い放った。そして、こう付け加えた。「モロッコは以前から、アルジェリアに敵対する行為を繰り返してきた」

レバノンの首都ベイルートにあるカーネギー中東センターのダリア・ガネム研究員は、モロッコがイスラエルのサイバー企業NSOグループのスパイウエア「ペガサス」を使い、数百人のアルジェリア政府関係者のスマートフォンをハッキングしていた事実をアルジェリア側がつかみ、激怒していると指摘する。この問題は7月、明らかになったが、モロッコ政府は否定している。ガネム氏は「アルジェリアもモロッコも内政から焦点をそらし、国民の関心をささいな問題に引きつけようとしている。両政府はともに国内の反体制勢力に対処しなければならないからだ」と話す。

モロッコ政策分析研究所のムハンマド・マスバフ所長は、両国の関係が「終わりのない冷戦のようなもの」で「アルジェリア側は脅かされ、追い詰められていると感じている」と解説する。両国間に偶発的な暴力が生じる事態が考えられるとマスバフ氏は懸念を示し、こう指摘した。「現状を鑑みて、最善の結果といえるのは、(両国関係が)緊迫する前の状態に戻り、外交によって危機を管理することだ」

By Heba Saleh

(2021年10月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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