/

中国警戒で軍需に傾く米テック(The Economist)

The Economist

ペロシ米下院議長が3日に台湾を離れると、中国は領有権を主張する台湾島周辺で軍事演習を始めた。ペロシ氏の挑発行為に対する怒りの表明であり、中国が可能性を否定しない武力による台湾統合の予行演習でもあった。台湾と西側にとって悪いことに、米国による戦争シミュレーションで中国側が優勢との結果が出ることも少なくない。

米議会の2018年の報告書は、台湾を巡る戦いで米国が中国に「決定的な軍事的敗北」を喫する可能性があるとした。中国は軍事技術の面でも競争力を強めており、米国防総省にとって技術力の強化は重要な課題だ。同省関連機関「国防イノベーションユニット(DIU)」を率いるマイケル・ブラウン氏は、世界的な競争力を持つ米国のソフトウエア企業と兵器メーカーが緊密に協力すれば、問題は解決できるとみている。

米ベンチャーキャピタル(VC)大手アンドリーセン・ホロウィッツのキャサリン・ボイル氏は、米大手兵器メーカーでは一流プログラマーが不足しているという。一方で、人材の宝庫であるシリコンバレーは以前から技術の軍事利用に嫌悪感を示してきた。

中国の好戦的な姿勢やロシアのウクライナ侵攻などの地政学的緊張を背景に、防衛分野は技術者の目に道徳的に映り始めている。同時に、テクノロジーは戦争のあり方を変えている。ハイテク大手も新興企業も、年間1400億ドル(約18兆7000億円)規模の国防総省の調達と全体で相当な規模に上る米同盟諸国の軍事費に目を向けている。

アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトなどの大手は、国防総省の契約獲得を狙う。米航空宇宙・防衛分野の新興企業に対するVCの投資額は19~21年の間に3倍の100億ドルに増加した。22年上半期はそうした企業が調達した資金の総額は40億ドルと、21年下半期より若干減ったが、平均的な新興企業ほどは減らなかった。

データ解析を手がける米パランティア・テクノロジーズが8日発表した22年4~6月期決算は、売上高が前年同期比26%増の4億7300万ドルと予想を上回った。米国のテック企業が国防総省を敬遠する時期が終わろうとしているのかもしれない。両者の関係修復は、米国の巨大軍産複合体の変容にもつながる。

反戦機運が生んだ壁

シリコンバレーが草創期にレーダーや半導体などの開発拠点になったのは国防総省の影響だ。米防衛大手ロッキード・マーチンはかつて、カリフォルニア州マウンテンビュー(グーグルの親会社アルファベットの現本拠地)とクパチーノ(アップルの本拠地)の間のサニーベールでミサイルを製造した。だが、ベトナム戦争で状況が変わった。反戦感情がスタンフォード大学の教室や教員室から起業家のガレージにまで浸透した。

反戦機運のなかでスタンフォード大はパロアルトのキャンパスでの軍事関連研究や兵士募集を禁じた。グーグルが18年に国防総省のクラウドコンピューティング契約の入札に参加しようとしたときは、従業員数千人が抗議して止めさせた。同社の人工知能(AI)の開発指針は兵器に利用しないことを明記している。

2つの力がシリコンバレーを国防総省に引き寄せている。1つは地政学的リスクの高まりだ。ロシアがウクライナに侵攻する前から、各国は不安感を強め、国防予算の増額に動き、世界の国防予算は21年に初めて2兆ドルを突破した。北大西洋条約機構(NATO)が定める国内総生産(GDP)の2%という国防費の目標は、今は軽んじられているが、米銀大手シティグループは、今後この水準が最低ラインになるとみている。

国防費の増加は防衛に役立つ技術を持つハイテク企業にとって市場規模拡大を意味する。対ドローン防衛システムを開発する米アンドゥリル・インダストリーズのクリスチャン・ブローズ最高戦略責任者は、成長のため、米国の同盟国を市場として重視するという。ウクライナ侵攻が始まって以来、欧州諸国の国防省はパランティアのデータ解析技術に関心を示している。

兵器・指揮統制にAIを活用

もう一つはテクノロジーの変化だ。兵器や指揮統制システムに高度なコンピューティング、特にAIが取り入れられつつあり、国防総省は取引先としてシリコンバレーに目を向け始めている。シリコンバレーの機械学習の技術力は、防衛大手米レイセオン・テクノロジーズやロッキードを上回る。ブラウン氏は「国防総省が必要とする技術が内部で開発されることは少なくなり、商用や軍民両用技術が増えている」と説明する。

航空機や戦車などを「プラットフォーム」として購入してきた国防総省は、比較的安価な機器によるネットワークの構築を志向している。イスラエルは21年、自律型ドローン群が作戦を遂行する「スウォーム戦術」をガザ地区で実験した。国防総省は、センサーと部隊がリアルタイムでデータを共有する「全領域統合指揮統制(JADC2)」を構築しようとしている。軍事分野専門VC、シールド・キャピタルのラジ・シャー氏は、これが国防総省のテクノロジー観を変えつつあるという。パランティアのセス・ロビンソン氏は、これからの戦闘は「ソフト第一」だという。

ソフト開発企業に朗報だ。ハイテク大手はすでに軍隊や法執行機関にクラウドストレージ、データベース、ロジスティクスなどを納入しているが、次は戦場に近づこうとしている。アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、オラクルは、「JWCC」という国防総省がクラウドを導入する90億ドル規模のプロジェクトの5年契約を共同受注しようとしている。

マイクロソフトは21年、米陸軍の戦闘訓練用に拡張現実(AR)端末「ホロレンズ」を供給する10年契約を220億ドルで獲得した。アルファベットは6月に立ち上げた子会社を通じて国防総省の契約獲得を目指す。グーグル社クラウド部門のトーマス・クリアン最高経営責任者(CEO)は「バックオフィス業務だけのためにJWCCのプロジェクトに参加するつもりはない」と語り、反軍事のポリシーを返上する姿勢だ。

ベンチャー企業にも商機

米新興企業もチャンスをうかがう。アンドゥリルは1月、対ドローン防衛システムを構築する10年契約を10億ドルで獲得した。翌月には、スカイディオが米陸軍に1億ドル相当のドローンを納入する契約を獲得した。パランティアは、JADC2の具体化に関わるハイテク企業のひとつだ。20年に上場したソフト開発のC3.ai(シースリーエーアイ)は7月、レイセオンから長距離精密照準システム向けAIの開発企業に指名された。ロッキードのスティーブ・ウォーカー最高技術責任者は、そうした企業との提携を目指しているという。

テック企業が軍事市場を制するとは限らない。防衛分野へ参入したハイテク大手の実績はまちまちだ。戦闘対応型のウエアラブル端末を開発する国防総省の案件は15年にスタートし、アップルが参加しているが進んでいない。JWCCは、競争入札でマイクロソフトに敗れたアマゾンが訴訟を起こしてお蔵入りとなった「JEDI」という旧契約の仕切り直しだ。ホロレンズの供給契約は遅れ、無駄遣いとの批判もある。パランティアは、4~6月期、増収でも損失を計上、創業18年で黒字化を期待した投資家を落胆させ、株価は10%強下落した。

新興企業のなかでは、アンドゥリルとスカイディオの受注規模が大きい。ボイル氏は小規模な新興企業のほとんどが「大型契約を狙っている」という。米国の16年以降の防衛調達費1兆ドルのうち、古参の契約業者以外に回ったのはごく一部だ。この割合が高まると、ワシントンで大きな権限(と大勢のロビイスト)を握る古株の納入業者から抵抗が生じる可能性もある。

障害を乗り越えることは可能であり、新規参入組だけでなく、国防総省の利益にもかなうはずだ。20年末、米国は国防総省の戦争シミュレーションでついに中国を制した。勝利の決め手はハードの追加や改良ではなかった。賢いソフトが使えるJADC2のようなシステムを投入したためだった。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. August13, 2022 All rights reserved.

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン