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[FT]「日本化」する世界人口

若者の悲観生む懸念

(更新)
Financial Times

母が生まれた時の世界の総人口は30億人に満たなかった。筆者が生まれた時は50億人に近かったが、娘が生まれた時は約77億人に増えていた。しかし、娘は生きている間に、世界人口が減少に転じるという新たな時代の始まりを目にするかもしれない。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により、一部の国では出生者数が歴史的な減少をみせている。スペインの2020年12月の出生者数は前年同月比20%減となり、1941年の統計開始以来、最も少なかった。イタリアも20年12月は同22%減、フランスも今年1月は前年同月比13%減だった。

すべての国で出生者数が減ったわけではない(ドイツはこの3月の出生者数が前年同月比10%上昇し、1998年以来の高さを記録するなど、ちょっとしたベビーブームになった国もある)。パンデミックの影響は一過性かもしれない。しかし、こうした動きは、世界中で女性が産む子どもの数が長期的に減少しつつあるという傾向に注目を集めることとなった。

世界人口は2064年の97億人をピークに減る

今や世界人口の半数近くが住む国や地域では、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、「人口置換水準」(人口の国際移動がないと仮定し、現在の人口規模を維持するのに必要な合計特殊出生率の水準)の2.1を下回っている。現在も人口の急増が続くサハラ砂漠以南のアフリカでさえ、出生率は70年代の6.8から約4.6にまで低下している。

国連が2019年に発表した「世界人口推計」によると、世界人口の増加は2100年前後に止まるという。一方、英医学誌「ランセット」が昨年掲載した論文は、世界人口は2064年に97億人でピークに達し、2100年までに88億人まで減少すると予測する。

こうした予測は地球にとって喜ばしい知らせだと考える人は多いだろう。人口の急増は、地球環境に強い負荷をかけてきた一因だからだ。また、発展途上国では通常、出生率低下は多くの場合、女性が教育をもっと受け、様々な機会を得ることにつながると考えられている。

一方、今後数十年にわたり人口の高齢化が進む中、高齢者を財政面やケア・介護面などからどう支えていくのかという問題を抱える国々にとっては、人口増がまだ続いている国や地域からの移民受け入れを増やすという選択肢もある。ランセットに載った論文によれば、2100年にはインドに次いでナイジェリアが世界で2番目に人口の多い国となるという。

ドイツのマックス・プランク人口研究所のジョシュア・ワイルド氏は「世界中に欧州や米国に移住したくてたまらないという人が山ほどいる。だから、こうした人たちをとにかく受け入れることが解決策になるかもしれない」と指摘する。

仕事と育児両立できても出生率は1.5どまりに

いずれにせよ、我々が先進国の出生率を人口置換水準にまで回復させたいと考えても、それは無理かもしれない。 フィンランドは仕事と育児を両立できるよう様々な政策を実施しているが、出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったままだ。フィンランドの人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究教授はこう話す。

「16歳未満の子どもを持つ親たちがどのように仕事と家庭を両立させているかを調査したところ、最大の問題はどうしたら興味深い調査報告を書けるかだった。というのも、誰もが現状に非常に満足していたからだ」

そしてこう続けた。「これまで、真の男女平等を実現できれば出生率は上がるという期待があった。ところが、両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した。ただ、人々がそれで満足しているのであれば、この出生率の低さは果たして問題視すべきなのか、ということだ」

高齢化と人口減が生む悪循環の危険

この指摘には確かに一理ある。だが、それでも原因が何であれ出生率の低下は喜ぶべきことではない。

世界には、望んだだけの数の子を持てない国がある。韓国の出生率は今、1を下回る。労働時間が長すぎるうえ、住宅費や教育費が高く、母親が受けられる支援があまりにも少ない。

ソウル大学のエリン・ヘウォン・キム准教授は「長時間、遅くまで働くのが美徳」という韓国経済を急成長させたのと同じシステムが社会に多大な負担を強いていると説明する。

特定の世代にストレスがかかるのは歓迎すべき事態ではない。韓国は特に深刻だが、同国に限った問題ではない。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)が今年前半に各国の若者を対象に調査したところ、多くが将来に対し強い不安を口にした。

雇用を維持できるのか、住宅を確保できるのか、自分は死ぬまで働かなければならず、引退などできないのではないかといった不安だ。子どもを持てるほど生活を安定させられるのか不安だと語る者たちもいた。

問題は、各国で高齢化と人口減少が始まると、こうした不安要素が悪循環を生む危険だ。特に若い世代が、自国の政策が人口の多い高齢世代の要求中心に決まっていくのを目にする場合、その危険は高まる。

子どもを生みたいのに持てないのは警鐘だ

11年に人口が減少に転じた日本では、東京大学社会科学研究所の石田浩特別教授が実施したパネル調査で、若者は現状の生活水準には満足しているものの、将来に対しては極めて悲観的な見方をしていることが判明した。

テンプル大学ジャパンキャンパスの堀口佐知子准教授はこう説明する。「若者は自分たちの声が政治にはあまり反映されないことを知っている。高齢者の方が有権者としての数は多く、彼らが政治を動かし、カネはすべてその世代に流れる」

今後100年を左右する重要な政策課題の一つは、高齢化していく世代のニーズに応えつつ、いかに若い世代に希望と安心を提供していけるかだ。

女性が何人の子どもを持つかをコントロールすることはできないし、統制しようとすべきでもない。しかし、子どもを持つというのは、いろんな意味でよりよい時代が到来すると信じることだ。

子どもを持ちたいと願いながら持てない人がいるとしたら、我々はそれを心にとめるべき警鐘だととらえるべきだろう。世界人口は多すぎるから、という理由で軽視してよい問題ではない。

By Sarah O'Connor

(2021年8月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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