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中国TikTok、なお残る疑念(The Economist)

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The Economist

元気なダンスや音楽に合わせ口を動かす「口パク」の動画があふれる中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」は「インターネットに残る最後の日の当たる場所」を自称していた。

サービス開始から5年で10億人強の利用者を獲得し、彼らの心を温める一方、米シリコンバレーのSNS各社に激しい競争をもたらし、それまでつけいる隙がないと思われていた米テック業界の一角に大きな風穴を開けた。

AI活用しFBの半分の期間で利用者10億人確保

だが消費者や広告主を楽しませても、暗い面があるとみる人もいる。同アプリを保有する字節跳動科技(バイトダンス)の本社は、市民への監視とプロパガンダに力を入れる中国にあるためだ。ティックトックの影響力が拡大する中、中間選挙が近づく米議会では、同アプリが米国を陥れるワナに使われているのではないかとの疑念が民主、共和両党から浮上している。

ティックトックへの成長期待が大きいのはわかるが、不安視するのは当然だ。同アプリに制約を課さない限り、中国共産党がこのアプリを使って敵対勢力に危険を及ぼす可能性はある(編集注、米ネットメディアのバズフィードは6月17日、米国法人ティックトックの社内会議の録音をもとに中国側の技術者が米国の利用者データに繰り返しアクセスしていると報じた)。

ティックトックが西側の不安を招かずに事業展開できる方法をみつけられるのか。それは米中関係が悪化しても国際企業や世界のネットがその影響を受けずにすむかの試金石となる。

同アプリの画面は単純に見えるが、その裏では恐ろしく高度な人工知能(AI)が稼働している。登録利用者数10億人の獲得に交流サイト「フェイスブック」の半分の期間しかかからなかったのも、その利用者の好みを高度に学習する機能のおかげだ。

売上高は24年にはYouTubeに並ぶ勢い

今や米国の平均的利用者が一日に同アプリに費やす時間は写真動画共有アプリ「インスタグラム」の利用者が費やす時間を5割上回る。売上高は2022年に120億ドル(約1兆6300億円)、24年には230億ドルに達し、動画投稿サイト「ユーチューブ」と肩を並べる見通しだ。

SNSを巡る競争にも大きな影響を与えた。米連邦取引委員会(FTC)は20年に、独占禁止法違反の疑いで米フェイスブック(現メタ)を提訴したが、そんな懸念はもう不要だ。メタはティックトックの勢いに押され株価が大幅に下落、以来ティックトックをまねてサービスを見直している。米国は中国を他国をまねただけの資本主義を展開していると批判してきたが、今や立場が逆転した格好だ。

ただティックトックが中国企業であることへの懸念は続いている。トランプ氏は大統領任期終盤、ティックトックの米事業を米企業に売却するようバイトダンスに命じたが実現できなかった。その利用者数はトランプ政権時代からほぼ倍増し、米中関係はさらに悪化しているだけに、同アプリを巡る事態は重要な局面を迎えつつある。

最大の懸念はプライバシーに関するものだ。中国政府は、中国に拠点を置く企業にはあらゆるデータの提出を命じることができる。ティックトック投稿者の多くは中国共産党が自分の踊りを分析しても気にしないだろうが、投稿された膨大な動画から顔や音声のデータを収集し、中国が進める監視社会の構築に役立てている可能性はある。

ただ、これは懸念しすぎかもしれない。顔や音声に関する情報は利用者がネットに載せる動画から取得することも、そうしたデータはネットで購入することも可能だからだ。特に個人情報保護法がお粗末な米国の利用者の情報入手は簡単だ。従って、アプリ内部のデータにアクセスできる利点はわずかだろう。

米利用者の4分の1はニュースもティックトック

より大きく、かつ十分に認識されていない問題は、ティックトックを使う大勢の外国人が見るコンテンツを中国政府が操作するのを許しかねない点だ。今や陽気な動画アプリというよりニュースを提供するアプリとしても主流になりつつあり、米国の利用者の4分の1はニュースはティックトックでみると答えている。主流メディアがあまり存在しない国では、その割合は5割に達する。

それだけにティックトックの運営会社が中国企業なのは懸念材料だ。国内メディアに積極的に介入する中国政府は18年には、バイトダンスの別の人気の動画投稿アプリ「内涵段子」で共有されていた反体制的な冗談を問題視し、同アプリを閉鎖させた。ティックトックに不適切なコンテンツが投稿されていないか監視するモデレーターは中国以外の国で業務に当たっているが、そのアルゴリズムは北京で作っている。

あちこちを細工して、例えば新型コロナウイルスの中国起源説を疑問視する動画や、ウクライナでの戦争の責任は北大西洋条約機構(NATO)にあるとする動画の視聴回数を大幅に増やせる可能性がある。利用者の関心に合わせた動画を表示できる仕組みなので、何か工作されていたとしても発見しにくい。

ティックトックは、中国政府から干渉を受けたことはないとしている。だが運営母体が、メディア操作に熱心な強権的政府の標的になりやすいのは明らかなリスクだ。この懸念を払拭できる仕組みが確保されない限り、西側諸国はいつか自国でのティックトックの利用を禁止せざるを得ない可能性がある。

そうした事態を防ぐための第一歩は技術的な対応だ。ティックトックは現在、米規制当局と協力して米国人利用者のデータは米企業オラクルで保管し、同アプリの中国拠点のスタッフによるアクセスを制限する枠組み作りを進めている。コンテンツの不正操作については第三者によるアルゴリズムの検査を受け入れるとしている。AIによるアルゴリズムは、アルゴリズムを見ない限りAIがどう機能しているか理解するのは難しいからだ。ただ、現時点ではトランプ氏に好意的な内容の動画が大量に流れてくるのは中国政府が介入しているからなのか、利用者が世論を二分するコンテンツを楽しんでいるからなのか不明だ。

ティックトックがソースコードを開示し、アルゴリズムの更新方法について継続的なチェックを受け入れるなら、こうした問題への懸念はある程度は解決できるだろう。

所有権も広げ外国人株主の発言権も高めよ

さらに難しいのはティックトックの独立性をどう高めるかだ。同アプリを運営する会社を親会社バイトダンスから切り離す一層の努力が必要だ。ティックトックは自身の独立した取締役会に対して最終的な責任を負うべきであり、取締役会には中国以外からの役員も迎え入れるべきだ(理想はベンチャーキャピタルといった出資者ではなく、もっと広い視点をもった取締役で構成するのが望ましい)。

中国以外の取引所に上場するなど、所有権と議決権を広く分配することで外国人株主の発言権を高めることも必要だ。そうすれば真に独立した企業といえる。

中国政府は、こうした対応策には反発するかもしれない。どんなコンテンツを薦めるかを決めるアルゴリズムを重要技術に指定しているだけに、ティックトックのコードの開示と分析には反対する可能性がある。中国企業の支配権を外国人に少しでも渡すことにも難色を示すだろう。

だが中国は、企業を国家の統制下に置きながら諸外国が警戒する分野で中国企業に事業を国際的に展開させたいなら、各国が納得する対応を取ることが不可欠な点を認識する必要がある。中国がそれを拒むなら、ティックトックだけでなく他の中国系ネット企業も西側諸国からは完全に締め出されることになるだろう。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. July 9, 2022 All rights reserved.

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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