中国アリババ、上場来初の減収 4~6月売上高0.1%減

【上海=若杉朋子】中国電子商取引(EC)最大手、アリババ集団の業績に急ブレーキがかかった。4日に発表した2022年4~6月期決算は売上高が前年同期比0.1%減の2055億元(約4兆円)と、14年の米国上場以来初の減収となった。新型コロナウイルスの感染対策に伴う経済活動の停滞で、主力のEC事業が低迷した。経営立て直しに向けて金融やクラウド事業に力を入れるが、規制を強める中国当局が行く手を阻む。
「4月と5月は比較的低調だったが、長期的な成長機会には自信を持っている」。張勇(ダニエル・チャン)会長兼最高経営責任者(CEO)は4日夜、こうコメントした。14年にニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を果たした後も成長が続き、21年7~9月期までは2桁の増収率を誇ってきたが、ここに来て転換点を迎えた。

営業利益は19%減の249億元、純利益は50%減の227億元と、いずれも落ち込んだ。業績低迷の主因は、ネット通販など「中国コマース事業」が1%の減収と伸び悩んだことだ。同事業は売上高全体の7割を占める。

中国政府はコロナの感染拡大を受け、上海市を2カ月間にわたってロックダウン(都市封鎖)に追い込み、北京市でも行動制限を敷いた。これが配達員などの人手不足や配達遅延といった混乱を招き、減収減益へとつながった。
追い打ちをかけたのが、競合の存在だ。配達員が個々の家を回ることが難しいなか、騰訊控股(テンセント)や拼多多(ピンドゥオドゥオ)などはマンション単位でまとめて注文を受け、一括配送する「共同購買」と呼ばれる手法で顧客を獲得。アリババは配送業務の多くを委託しているとされる。他社に比べた物流基盤の弱さが対応の遅れにつながったようだ。
こうしたEC頼みの事業構造を立て直そうと、アリババはかねて他の事業の拡大を急いできた。特に「クラウド」と傘下のアント・グループが手掛けるネット決済などの「金融」に注力してきた。
そこに立ちはだかったのが中国当局だ。
中国では7月に10億人の個人情報が流出したとされる問題が明らかになった。個人情報のデータはアリババの提供するクラウドシステムに保管されていた可能性があり、当局はアリババ幹部を呼び出した。クラウド事業は「あらゆるビジネスや産業のデジタル化への転換を進めるために必要となる」(張CEO)とみて先行投資を進め、22年1~3月期は営業黒字に転換したばかりだった。

金融事業も同様だ。20年10月、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が「良いイノベーションは(当局の)監督を恐れない」などと、政府批判と受けとれる発言を口にした。これを機に当局がアリババを問題視したとされ、アントは上場延期を迫られたほか、融資などの事業縮小に追い込まれた。
こうした当局の締め付けに対し、アリババは恭順の姿勢を示す。今年に入り複数のアント幹部に対し、アリババの幹部職との兼務を解いた。馬氏のアントに対する経営関与度も薄めようとしているもようで、アリババとアントの関係は徐々に遠のいている。
また、アリババは香港取引所をNYSEに並ぶ上場先に位置付けるとも表明。張氏は「香港はアリババのグローバル化戦略の出発点だ」と述べ、中国を重視する姿勢を強調した。
上海では足元で感染者が減少傾向にあり、物流網は正常化に向かいつつある。上海のロックダウンが解除された6月以降は、ネット通販の取扱高は増加に転じた。市政府などは大型イベントを開催するなどで消費を後押ししており、行動制限などでたまった鬱憤を晴らす「リベンジ消費」へ期待が高まる。
アリババが中国当局との関係を改善するとともに、停滞を抜け出して再び成長路線へと戻れるのか。当面は視界不良が続く。
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