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コロナ死の多寡 決める格差(The Economist)

The Economist

新型コロナウイルス感染が世界的に拡大して17カ月が経過した今でも、この疫病に対する多くの疑問に答えが出ていない。新型コロナの発生源しかり、地域によって感染状況が異なる理由もしかりだ。米フロリダ州では、新型コロナの感染拡大に伴う行動規制が他の州より緩い期間が長いにもかかわらず、人口当たりの死者数が米国平均を下回ってきた。その理由も明らかになっていない。

英ロンドンではロックダウン(都市封鎖)に反対する人々が警官隊とにらみ合いをしたが、封鎖の厳格さと感染者数や死者数との関係は解明されていない(7月)=ロイター

だが、研究者らは死者数の地域的ばらつきの謎を解く「魔法の」変数解明に近づきつつある。それは医療対策とも、気候や地理的条件とも関係が薄い。それは経済状況に関連している。

新型コロナの感染者数や死者数を決定づける要因に関しては、膨大な文献がある。そこからわかるのは、一般的に関係があると考えられている要因が必ずしも関係しているとは限らないということだ。死亡リスクが最も高いのは高齢者だということは誰もが知っているが、65歳を超える人口の割合が28%と世界平均の9%を大きく上回る日本では、新型コロナの死者数がこれまで驚くほど少ない。

新型コロナの感染拡大前にインフルエンザが大流行した地域では新型コロナの感染が抑えられているという研究もいくつかあるが、そうした研究結果を疑問視する向きもある。ロックダウン(都市封鎖)の厳しさと感染者数や死者数との間にも、一貫した相関関係はない。

こうした意外な事実を目の当たりにして、異常ともいえる偏執的な答え探しが始まった。これまで関係があるとは考えられていなかったが、新型コロナによる死者数が地域によってばらついている理由を解明する変数を専門家らは探している。

現時点で最も有力なのは所得の格差だ。所得格差を測るには一般に「ジニ係数」を用いる。この係数は完全に平等な場合はゼロ、完全に不平等な場合には1となる。

ジニ係数と超過死亡に強い相関関係

データサイエンティストのユーヤン・グー氏はこのほど、解析モデルを何度も調整して、41種類の変数と米国の各州の新型コロナ死者数との間の相関関係を探った。

その結果、どの解析においても新型コロナによる死亡と重要な相関関係がある変数は3つしかないことがわかった。所得格差、人口密度、人口当たりの介護施設入所者数だ。そのうち最も影響が大きいのは所得格差だった。

世界を見渡すと、グー氏はいいポイントを突いているようだ。所得格差が小さい北欧諸国では、新型コロナの人口当たりの死者数が欧州全体を下回っている(厳しい行動規制を取らなかったスウェーデンでも同じだ)。

ジニ係数が0.29のフランスでは、0.34の隣国の英国より(死者数が平年に比べどの程度多いかを示す)超過死亡が格段に少ない。一方で、格差が著しく大きい米ニューヨーク州では、新型コロナの死者数もずばぬけて多い。フロリダ州はいずれの点でも突出していない。

グー氏と同じように変数を用いて分析した研究は少ない。だが、本誌(The Economist)が新型コロナによる死者数の決定要因を巡る研究論文を数十件調べた結果、所得格差は死者数がばらつく理由を解明する力が一貫して強いことを確認した。例えば、カナダ・マギル大学のフランク・エルガー氏らは84カ国を調査し、ジニ係数が1%上昇すると、新型コロナによる死亡率が0.67ポイント上昇することを突き止めた。

また、米スタンフォード大学のアナベル・タン氏、ジェシカ・ヒンマン氏、ホーダ・アブデル・マギド氏は米国の各郡を調べ、所得格差と新型コロナ感染者数と死者数との関係性は2020年こそ一定しなかったが、おおむね関係性があり、格差が大きい郡ほど感染者や死者が多くなる傾向があることを確認した。

労使関係も感染拡大を左右

こうした興味深い相関関係がなぜ生じているかは、あまり研究されていない。だが、納得できそうな理由は3つある。

1つ目は基礎疾患に関係している。ハーバード大学のベス・トゥルースデール氏とクリストファー・ジェンクス氏が16年に行った研究では、所得格差が大きい地域ほど平均寿命が短いことを示す「妥当なエビデンス」が得られている。これは経済学者が認めているように健康状態と所得の間に相関がみられるからだろう。

つまり、経済的に豊かな女性の所得が1ドル(約110円)増えると健康状態が改善されるが、貧しい男性の所得が1ドル減った場合に健康状態が悪化する度合いと比較すると、貧しい男性の健康が悪化する度合いのほうが大きい。

そして健康状態が悪い人ほど、新型コロナの影響を受けやすい(実際に他の研究結果でも、新型コロナ感染症が重症化しやすい肥満症などの基礎疾患と所得格差との間に関連があることがわかっている)。

2つ目の要因は労使関係だ。相対的に平等な国の労働者ほど交渉力が強いため、雇用主に対して懸念を表明し、対応の是正を求めていきやすい。これが裏目に出ることもあるが、新型コロナの感染拡大を助長する業務慣行を止めることは可能だ。

労働者に強い権利が認められているスウェーデンでは、食肉加工従事者や警察官などといった現場で働くエッセンシャルワーカーの死亡リスクが他の職種に比べて総じて高くはなく、全体の死者数抑制に一役買っている可能性がある。

これと対照的なのは、労働者の権利強化が遅れている米国、英国、カナダだ。米カリフォルニア州で行われたある調査によると、一定の職種で新型コロナによる死亡リスクが他の職種を大幅に上回っている。20年に超過死亡が特に大きく増えたのは、料理人やタクシー運転手などだったという。

必要だが困難な所得格差の是正

3つ目は、地域住民などのつながりを意味する「社会関係資本」に関連している。所得格差が大きい地域では他人に対する不信感が強く、地域的な活動への関心が薄い。国際通貨基金(IMF)が16年に公表した調査結果で、その理由が明らかになっている。

つまり、ライフスタイルに大きな差がある地域では、住民同士の共通点が少なく社会関係資本が弱い。そうしたところでは、自主隔離やマスクの着用といった新型コロナ対策に従おうという意識がほぼ希薄であり、対策順守を促す働きかけの効果も弱くなる。

所得格差が大きくなりすぎて是正が必要だと判断する理由は、一部の国ではすでにそろっていたが、その理由がまた一つ増えたことになる。所得分配制度は一朝一夕には変えられない。増税など所得格差を是正する手段はデメリットももたらす。

各国政府は当面、所得格差を考慮に入れて自国の新型コロナ対策を見直す必要がある。例えば、人に感染させてしまう場合に外出を控えるよう自主隔離に奨励金を活用するなど、経済的インセンティブを変えるとか、貧しい子供たちの健康増進に力を入れて成人の健康状態の改善につなげるといったことが考えられる。

こうした改善がみられない限り、所得格差の大きい地域ほど新型コロナが猛威をふるう状況が続くことになりそうだ。

(c) 2021 The Economist Newspaper Limited. July 31, 2021 All rights reserved.

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