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知っておきたい韓国大統領 選挙制度・対日方針・退任後

(更新)

2022年3月投開票の韓国大統領選挙に向けて二大政党の候補者が出そろった。与党「共に民主党」は李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事を候補者に選出、最大野党の「国民の力」は前検察総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏を選んだ。保守勢力と革新勢力が激しくぶつかる5年に1度の選挙が熱を帯びてきた。選挙の仕組みや大統領の権力を解説する。

任期は5年、再選はできない

韓国大統領の任期は5年で、米国やフランスのような再選はない。最多票を獲得した候補者が当選者となり、過半数の得票を獲得する候補者がいない場合でも決選投票は行われない。選挙法の改正により選挙権が18歳以上に引き下げられて初めての大統領選となる。今回の投票日は2022年3月9日だ。選挙当日は官庁や多くの企業で休業する。選挙期間中に候補者による討論会が実施される。

韓国は民主化以降、ほぼ10年周期で保革逆転の政権交代が起きた。このセオリーに従えば次も革新政権の継続となるが、韓国ギャラップの世論調査では政権交代を求める声が優勢だ。勝敗のカギを握るのは若者だ。年代別では年配層は保守、中年層は革新支持が優勢だ。韓国ギャラップの調査では20代の若者にも政権交代論が強いが、一方で支持政党や候補はまだ決めていないとの調査もある。従来の支持層だけでなく、社会への不満を強める若年層の共感を集める候補が接戦を制することになりそうだ。

与党候補の李氏、ベーシックインカムの導入を提唱

「共に民主党」の李在明氏は人権派弁護士出身で、ソウル近郊の京畿道・城南市長を経て2018年に京畿道知事に当選した。国会議員の経験はなく、党内では非主流派だ。歯切れのいい発言が持ち味で、新型コロナウイルスへの迅速な対応などが評価され、徐々に支持を伸ばした。国民に一律一定額を支出するベーシックインカム(最低所得保障)導入を訴え、外交安保は「強力な自主国防」「国益中心のバランス外交」といった理念を掲げている。

李氏には城南市長時代に推進した都市開発に絡む疑惑が浮上している。開発で法外な配当を受け取った会社が、市の開発公社にロビー活動をしていた疑いなどで、李氏の側近とされる人物が検察に逮捕された。今後の捜査が大統領選本選の行方に影響する可能性もある。

前検察総長の尹氏、米韓同盟に軸足

保守系野党「国民の力」の尹錫悦氏は32歳で司法試験に合格後、主に政界捜査を担う部署に身を置いた検察一筋の人物だ。「自分が正しいと思えば絶対に妥協しない」というのが信条で検察改革を巡り文在寅政権への抵抗を貫いた姿勢が、低迷する野党の支持層に救世主と映った。尹氏が掲げる政策で、与党候補の李氏との最大の違いは外交・安全保障だ。北朝鮮に対抗する立場から、米韓同盟の強化に軸足を置く。経済政策では規制改革や自営業者への支援などを唱える。ベーシックインカムを唱える李氏の主張には「財政破綻は避けられない」と批判している。

尹氏にも検察総長時代の職権乱用疑惑が持ち上がる。検察が野党関係者に対し、検察に批判的な与党政治家らを刑事告発するよう働きかけたとする疑惑で、文政権が設けた高位公職者犯罪捜査処が捜査を進めている。

日本は「友邦国家なのか?」VS日米韓で「安保協力を強化」

日韓関係を巡る両氏の見解の違いは鮮明だ。

李氏は11月10日の討論会で、日韓が領有権を主張する島根県の竹島(韓国名・独島)問題に絡み、日本への警戒心をあらわにした。「日本はいつでも信用できる友邦国家なのか」と述べ、安全保障連携を深めることに慎重な姿勢を示した。李氏は韓国の記者から、日米韓の安保協力を同盟に引き上げることの是非を問われ「日本が領土問題や過去の(朝鮮半島への)侵攻に曖昧な態度を取っている点を考慮すると、日米韓の軍事同盟は極めて危険だと考える」と答えた。

一方、尹氏は11月12日、ソウル市で外国メディアと会見し、北朝鮮の脅威に対応するため日米韓3カ国の安全保障協力を強めるべきだとの認識を示した。悪化した日韓関係の改善に向け「歴史問題と経済、安保協力を網羅した包括的解決を模索する」と述べた。尹氏はまた「北朝鮮が核武装を強化し挑発的なミサイル発射実験を続ける限り、韓米日による監視・偵察情報の共有と軍事協力をアップグレードするほかない」と語った。

政府・軍など2万人の人事を掌握

国民の直接選挙で選ばれた国家元首と行政府の首班を兼ねる韓国大統領制は、北朝鮮の軍事行動もにらんで強い指導力をスピーディーに発揮できるのが最大の特徴だ。国会に対しては予算案提出権や法案の拒否権をもつ。公務員や憲法裁判所所長と裁判官、大法院長(最高裁判所長官)らの任命権で行政と司法ににらみをきかせる。軍に対しても国軍統帥権が与えられている。条約の締結・批准、宣戦布告権限、憲法改正提案権、戒厳令布告、恩赦に至るまでその範囲は広大だ。政府、軍、公共機関、公企業など約2万人の幹部級人事を左右するとされ権力の源泉になっている。

大統領選が近づくと各候補は「キャンプ」と呼ばれる選挙陣営をつくる。政治家や官僚、学者、企業、メディアから人材を集めて選挙戦略や政策を練る。候補が当選すればキャンプの人材が新政権の要職に就くため、キャンプ入りは大統領候補以外の人々にとっても立身出世の大きなチャンスだ。

不祥事招きやすい土壌、不幸な末路が多く

一方で、その強大な権力故に不祥事を招きやすい土壌になっているとも指摘される。民主化以降も「権威主義」が色濃く残り「情治国家」と例えられるほど個人的な人間関係が濃密だ。血縁のほか、地縁、学閥などが社会全体で幅を利かす。韓国の歴代大統領は、在任中に糾弾を受けて亡命を余儀なくされるか暗殺されたり、退任後に自身や身内が刑事手続きによって逮捕・収監・起訴の上で有罪判決を受けたり、不正追及を苦に自殺したりして、不幸な末路を迎える例が多い。

再任を禁止する規定は政策の一貫性が失われるほか、任期末に大統領の影響力が急速に低下するレームダック(死に体)に陥るという問題点も指摘される。憲法改正で2期8年制に見直すべきだとの議論はかねてある。一方、5年に1度、大統領が代わることによる「不連続性」が韓国政治や経済のダイナミズムの源泉になっているとの肯定的評価もある。

グラフィックス=荒川恵美子

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