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中国と台湾は加盟できる? 知っておきたいTPP

中国と台湾が環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を相次ぎ申請した。中国は米国が新たな自由貿易協定(FTA)の締結に後ろ向きな中、成長が続くアジア太平洋地域の貿易や投資で主導権を握りたいという思惑がある。実際の加盟にはデータを巡るルールなど中国にとってハードルは高い。一方、先を越された形の台湾にとっては中国の圧力が大きな壁になる。注目が集まるTPPの特徴や中台加盟への課題を解説する。

TPP、高い自由化水準

TPPは11カ国が参加するFTAの一つ。アジア太平洋地域の人口5億人をカバーする一大貿易圏だ。参加国の国内総生産(GDP)は10兆ドルを超え、世界全体の1割程度を占める。お互いの関税をなくしたり、投資のルールを透明にしたりすることで貿易や投資を活発にする狙いだ。

シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイの4カ国が2006年に発効したFTAが前身。その後、米国やオーストラリアなどが参加、日本は13年7月から交渉に加わった。米国はトランプ大統領就任直後の17年1月に離脱したが、日本がとりまとめ役となり18年12月に発効した。現在、英国が加盟に向けて交渉している。

参加国全体で関税を撤廃する品目は、工業製品の99%に達する。日本の代表的な輸出品目である自動車では、カナダが乗用車にかけている6.1%の関税が発効から5年目にゼロになる。また、TPP域内で一定割合以上の製品を生産すれば無関税で輸出できる「原産地規則」も盛り込んだ。たとえば、人件費の安い東南アジアで原料や部品を仕入れ、メキシコで組み立ててカナダに輸出する場合は関税が免除される。

サービスや投資の自由化も大きな特徴。データを扱う電子商取引や知的財産などの分野でもルールを定めている。例えば、ある国が外資企業に対しサーバーを自国内に設置するのを義務付けることや、ソフトウエアの設計図にあたる「ソースコード」の開示要求を禁止している。その他、国有企業の優遇策を縮小・撤廃、環境への配慮や労働者の保護もうたっている。

RCEPとTPPの違いは?

包括的経済連携(RCEP=アールセップ)は東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国を中心に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する広域の自由貿易圏。「Regional Comprehensive Economic Partnership」の頭文字をとってRCEPと呼ぶ。中国が参加する唯一の大型自由貿易協定となる。関税の削減などを通じて貿易自由化を促す枠組みで、20年11月に署名した各国は国内での批准手続きを進めている。9月に開かれた会合で22年1月までの発効を目指す方針を盛り込んだ。

RCEPは世界のGDPや貿易額で3割程度を占める巨大経済圏だ。全体として工業製品を中心に91%の品目で関税を段階的に撤廃する。RCEPの参加国は日本の貿易総額の半分を占め、政府はGDPを2.7%ほど押し上げる経済効果があると試算している。日本から中国への輸出で関税がかからない工業製品の割合は今の8%から86%に、韓国向けでは19%が92%になる。

RCEPは8年越しの交渉を経て妥結にこぎ着けた(2020年11月15日、オンラインで開催された協定署名式典)=ロイター

RCEPは参加国の事情に配慮し、自由化水準を低めにした面もある。「ソースコード」の開示要求禁止は盛り込んでいない。また「国有企業」や「環境」「労働」などの規定はない。知的財産やデータ流通など先進ルールを盛ったTPPに比べて市場アクセスの円滑化を優先した側面がある。

中国の加盟に3つのハードル

中国の加盟に向けた課題は多い。特に障害となりそうなのがデータを巡るルールだ。TPPはデータ流通の透明性や公平性を確保する原則を定めている。これは既存の多くのFTAが盛り込めなかったもので、専門家の間では「TPPスタンダード」と呼ばれている。中国は、企業や個人による国境を越えた自由なデータの流通には否定的だ。データ安全法(データセキュリティー法)などで統制を強化する同国は「RCEPレベルが限界だ」との指摘がある。

2つ目は強制労働の撤廃や、団体交渉権の承認など、労働に関するルールだ。ウイグル族への人権侵害が国際世論の反発を招く中で、中国はTPPの加盟交渉で難しい立場に置かれかねない。

3つ目として、国有企業への補助金や政府調達の手法など、中国国内の制度改革が必要なテーマも難しい分野だ。TPPは競争をゆがめるとして国有企業を補助金などで優遇することを禁じる。習近平指導部が進めてきた国有企業の増強を続けるなら、交渉はつまずく。TPPは政府調達でも国内外企業の差別を原則的になくすよう求めるが、中国は安全保障を理由に外資系の排除を進めてきた経緯がある。

また、中国が加盟するには全加盟国の支持が必要だ。マレーシア、シンガポールは加盟申請に歓迎の意向だが、日本・豪州は慎重な姿勢を見せている。メキシコもTPPは「高い基準を順守するすべての国に門戸は開かれている」と指摘。国有企業への補助などの中国の経済ルールが加盟に課題となることを暗に示唆した。

台湾の加盟申請に中国「断固反対」

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、2016年の就任時からTPP加盟を悲願としてきた。台湾経済は中国に大きく依存し、輸出は4割強を占める。統一圧力を強める中国からの脱却を急ぐには、TPPに加盟し中国への依存度を引き下げる必要があると判断した。その中国に加盟申請で大きく遅れれば、加盟が困難になるとみて申請手続きを急いだ。

台湾悲願の加盟にも難題がある。中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱える中国の圧力だ。中国は自身がTPPに加盟できなくても、台湾加盟を阻止するために、加盟国に対する働きかけを強める可能性が高い。TPP加盟国には、中国と強い貿易関係で結ばれる南米のチリやペルーや東南アジアの国々が多く含まれている。

中国外務省の趙立堅副報道局長は23日の記者会見で、台湾のTPPへの加盟申請に強く反発した。「台湾がいかなる公的な性質を帯びた協定や組織に参加することにも断固反対する」と述べた。米国がTPPから離脱した現在、中国の圧力を受けながら台湾の加盟を強力に後押しできる国は乏しいのが実情だ。

日本との関係でも課題がある。台湾は福島県など5県の農産品の輸入を全面禁止にしてきた。今でも5県産の農産品の輸入に対する市民の反対が根強い。TPPへの加盟のために輸入解禁を強行すれば、反対運動が起こって蔡英文政権運営を揺るがしかねない事情がある。

台湾、米中対立の最前線

中国はRCEPに続き、TPP加盟申請で経済的な影響力の拡大を狙う。国際的な通商などのルールづくりに積極的に参画して影響力を発揮し、自国の政治や経済、産業に有利な仕組みを広げる狙いとみられる。

6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の共同宣言に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と盛り込むなど、台湾を巡る動きは米中対立の最前線といえる。米国、英国、オーストラリアは9月15日、対中国を念頭に新たな安保協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設した。欧州連合(EU)は16日に「インド太平洋協力戦略」を公表し、台湾との関係強化を打ち出した。その直後の中国のTPP加盟申請は、通商だけの意味合いにとどまらない。現在加盟する11カ国の実質GDPは世界の1割超で、中国が加わると3割になる。安全保障上の中国の脅威が高まる中、経済だけでなく安保面も考慮した外交面の駆け引きが激しさを増すことになる。

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