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習主席がとなえる「共同富裕」とは 中国に文革の影…

中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が「共同富裕(ともに豊かになる)」というスローガンのもと、社会や思想に対する統制を強めている。企業経営者への批判に加え、芸能や教育など若者の思想形成に影響力を持つ業界への介入が相次ぎ、毛沢東氏が反対派を粛清した「文化大革命」の記憶がよぎる。2022年秋の中国共産党大会で3期目入りをうかがう習氏が打ち出した「共同富裕」とその影響を解説する。

富裕層に巨額「寄付」呼びかけ

「共同富裕」とは貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという中国共産党政権が掲げるスローガン。建国の父、毛沢東氏が1953年に提唱した。78年から改革開放に着手した鄧小平氏が唱えた「先に豊かになれる者から豊かになりなさい」という先富論と対比されがちだが、鄧氏も共同富裕を最終目標に据えていた。習氏は「報酬・税制・寄付」の3つの分野を通じて、格差是正のため所得分配を促す。富裕層や成功を収めた企業に対して「より多く社会に還元することを奨励する」と寄付を呼びかけている。

標的になっているのは巨大IT(情報技術)企業だ。中国当局は2020年11月に電子商取引(EC)最大手アリババ集団傘下の金融会社アント・グループの新規株式公開(IPO)に延期を迫って以降、アリババへの締め付けを鮮明にしている。創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が同年10月に「良いイノベーションは監督を恐れない」などと当局批判とも受け取れる内容の発言をしてから、中国当局の姿勢が一変して厳しくなったとされる。

21年4月には独占禁止法違反で約182億元(約3000億円)の罰金を科した。取引先に対してアリババの競合企業と取引をしないよう迫ったことが独禁法違反にあたると認定した。このほか、ユーザー数が100万人超の中国企業が海外上場する際に当局の審査を義務付けた。企業の呼び出しや指導も相次いでいる。

寄付を通じた社会還元の推進も求めている。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)の創業者、張一鳴氏は個人で教育基金に5億元を寄付する。ネット通販大手、拼多多(ピンドゥオドゥオ)の創業者の黄崢氏は浙江省にある浙江大学に1億ドル(約110億円)を寄付した。スマートフォン大手、小米(シャオミ)創業者の雷軍・董事長も個人で保有する144億元分の自社株を、貧困撲滅を目的とする自身の基金に無償譲渡する。

騰訊控股(テンセント)は農村の活性化や低所得者の所得向上などに計1000億元を投じる計画を公表した。ピンドゥオドゥオも8月末、農業技術や食糧安全保障などの研究に100億元を投資すると決めた。

証券市場にも圧力がかかる。IPOを目指す40社の上場手続きが8月に止まった。株式市場の不正一掃を目指す中国政府が、証券会社や法律事務所などを相次いで調査しているためだ。習指導部は、資本市場で不正に富を蓄積する動きを厳しくけん制する。棚上げとなった企業は中国の電気自動車(EV)大手、比亜迪(BYD)の半導体事業子会社「比亜迪半導体」や外科手術用医療機器を開発する「江蘇東星智慧医療科技」、バイオ医薬を開発する「和元生物技術(上海)」などがある。医薬やハイテクのように成長期待が高い新興企業が多い。

著名女優も締め付けの標的に

芸能界への締め付けも強めている。8月下旬に著名女優の脱税を摘発したほか、ファンからの資金集めに関する業界規制を強化する方針を発表。富裕層の違法な所得や行動を許さないという党の公正さを国民に広く示すため、芸能人が標的になった可能性がある。

上海市税務局は8月27日、女優の鄭爽氏がドラマ出演料などの収入を事実通りに申告せず脱税や納税漏れがあったとして、合計2億9900万元の追徴課税・罰金処分を科すと発表した。同局は「脱税の意図は明確で、納税の秩序を乱した」と強く非難、鄭氏はSNS(交流サイト)上で「社会に悪い影響を与えてしまった」と謝罪した。

ほかにも女優、趙薇氏の名前が動画配信サービスなどで出演作品のキャスト一覧から削除されたり、作品そのものが消されたりした。中国メディアによると、趙氏は自身が出資していたエンターテインメントやメディア会社の株主からも相次ぎ退いた。同氏は親族を通じてアントの株式を持っていたともされ、馬雲氏との親密な関係が狙い撃ちされたとの指摘もある。

共同富裕の理念とは裏腹に、中国は世界第2位の経済大国に成長する過程で格差が拡大した。クレディ・スイスによると、中国富裕層の上位1%による富の占有率は00年に20.9%だったが、15年に31.5%まで高まった。20年には30.6%まで下がったが、過去20年間の上昇幅は日米欧やインド、ロシア、ブラジルよりも大きい。

独禁法を武器に民間企業を締め付ける一方で、大手国有企業に対しては保護する動きをみせる。当局は国有企業同士の合併を促し、国有企業による寡占化をさらに進めている。「民間たたき」は経済全体の生産性を落とし、潜在成長率を押し下げるリスクをはらむ。

グラフィックス=竹林香織 佐藤綾香

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