ウクライナ緊迫、株急落 「危機後」見据えた物色も
22日午前の東京株式市場で日経平均株価は続落し、582円安の2万6327円となった。ロシアのプーチン大統領が21日に親ロシア派が実効支配するウクライナ東部の一部地域の独立を承認したと発表。ロシア軍の派遣も決め、ウクライナを巡る情勢は緊迫の度合いを高めた。日経平均の下げ幅が600円を超える場面もあったが、市場では「危機後」を見据えた物色の動きも芽生えつつある。
日経平均は午前に2万6305円まで下げ、取引時間中としては1月28日以来の安値を付けた。一方、日経平均を対象としたオプション価格から算出する日経平均ボラティリティー・インデックス(VI)は一時28.35まで上昇したが、15日の29台には届いていない。日経VIが市場の不安心理を映すとすれば、相場変動への警戒がさらに高まったとも言い切れない。
野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジストは「株式市場がウクライナを巡るリスクをこれまでに織り込んできたうえ、現時点では全面的な軍事衝突に至らず、欧米各国とロシアによる交渉の余地が残っている」とみる。銀行間の国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除する案を当初の制裁に盛り込まないとの見方が出るなど、欧米が自らの経済に打撃となる措置を回避しようとしていることも背景にあるという。
もちろん、株安には米国が金融引き締めに転じようとするなかで、投資尺度の面から割高感が出てきた銘柄の株価が下がる「バリュエーション調整」があるのも事実。日本でもPER(株価収益率)が相対的に高いグロース株は売りの対象となってきた。
「米国につれて下げすぎた面が大きく、見直し買いがあらためて入ってもおかしくない」。セゾン投信の瀬下哲雄マルチマネージャー運用部長はこうみている。米国の巨大IT(情報技術)企業である「GAFAM」のような銘柄がなく、グローバルでは日本市場への投資家の期待はそもそもあまり高くなかった。だからこそ、業績や投資尺度の面から見直される銘柄はあるというわけだ。
22日午前の東京市場ではコロナ禍で躍進した銘柄の代表格ともいえるエムスリーが2%高となる場面があった。リクルートホールディングスも高い。いずれも、足元の予想PERは30倍を下回っている。中小型のグロース株が多い東証マザーズ指数も上昇に転じる場面があるなど、慎重な銘柄の選別が進んでいる様子もうかがえる。
日経平均は21年9月に付けた31年ぶり高値(3万0670円)から1割超下げている。ただ、コロナ禍後の動きを振り返ってみると、2万6000円台は20年11月の1カ月間で2万3000円台から一気に駆け上がった水準だ。岡三証券の松本史雄チーフストラテジストは「このときに出遅れた投資家は多く、国内の機関投資家が買いに動く可能性はある」とみる。
ロシアの動きに対しては、当事国のウクライナだけでなく欧米各国も強く反発している。この先、事態がどういう展開を見せるのかは誰も分からない。多くの投資家がリスク回避の動きを強めるのは無理もないが「緊張のピークがすぎれば、株価は戻りやすい」(岡三の松本氏)。市場参加者は次の一手に動き始めているようだ。
〔日経QUICKニュース(NQN) 三輪恭久〕
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