いいとこ取り相場もあれば、粗探し相場も
本欄11月5日付「米選挙いいとこどりの株高、円高進行には歯止め」に書いたが、米大統領選挙が、いまやマーケットの流行語になった感のある「いいとこどり相場」の原点であった。
当初はジョージア州決選投票で共和党が勝利すればネジレ議会継続となり、増税や米グーグル・アップルといった「GAFA」規制などの強硬策は議会を通りにくくなる、との読みであった。
さらに、バイデン・リフレが材料視されると、ドル金利高に振れ、ドル高になるとも書いた。
そしてジョージア州の上院議員選は2議席とも民主党が獲得しネジレ議会が解消されるや、「上院50対50では、1つ空席ができるだけで、増税案が拒否される可能性がある」「民主党中道派が、富裕層に対する株式売買益39%課税を抑え込むであろう」などの都合の良い解釈が流れる。
8日に発表された米雇用統計も、「いいこと取り」された。非農業部門の雇用者数が事前予測5万人増に対して、14万人減と発表された。しかし、市場では、景気刺激策出動期待が強まる結果となった。
とはいえ、「いいとこ取り」がいつまで続くはずもない。
最大の問題点は、米国10年債利回りが1.14%まで上昇してきたことだ。
当面は兆ドル単位の追加財政投入による景気回復期待を映す「良い金利上昇」と好評価されよう。
しかし、1.25%から1.5%の節目を突破するほどに金利が続騰すれば、一転国債超増発懸念の「悪い金利上昇」と解釈されるリスクをはらむ。積み上げた国の借金は消えない。いいとこ取りにも限界がある。
そこで期待されるのが米連邦準備理事会(FRB)の追加国債購入だが、パウエル議長からの「満額回答」は期待しづらい経済環境もある。
インフレ期待が高まっているからだ。1月11日時点でのBEI(ブレークイーブン・インフレ率)は2.06%と高水準にある。実質金利は依然マイナス圏内に沈んでいるのだ。
しかも、貯蓄率は12.9%の水準を維持しており、民間の資金は潤沢だ。
12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、量的緩和拡充が市場では期待されたが、その後発表されたFOMC議事録では、多くの参加者が慎重な姿勢で、追加緩和議論が盛り上がっている兆候は読み取れなかった。
「ブルーウエーブの宴(うたげ)」の後はどうなるか。
パウエルFRB議長のさじ加減ひとつということになりそうだ。
ひとたび相場の流れが変わると、一転「粗(あら)探し相場」と化す可能性もある。過剰流動性は気まぐれだ。買いだけではない。空売りに動く習性もあるからだ。
なお、懸念されたドル安による、とばっちり円高進行は、ドル反発により100円を割り込む円高懸念が後退しつつある。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、逃避マネーによる低リスク通貨としてのドル買いが継続していることも見逃せない。

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