/

イエレン氏「共和党牽制発言」、日米・共闘株高を誘発

5日に発表された米雇用統計の内容は就職活動を諦めた長期失業者の増加を示す内容で市場は懸念を強めた。そこで、間髪入れず待ってましたとばかりにバイデン大統領が緊急講演を行った。「雇用状況はかくも厳しい。(共和党が3分の1への減額を主張している)民主党案の1.9兆ドル規模の追加経済政策を今こそ実行せねばならない」。財政赤字を心配するより、まずは追加財政出動で雇用回復が重要だ、と国民に訴えた。きょうがなければあすはない、との危機感が満ちる講演であった。

こうなると、共和党も強くは反対できない雰囲気が醸成される。

そこにイエレン財務長官が週末のテレビ生出演で、共和党牽(けん)制の追い打ちをかけた。「財政は大胆に」。「Act Big!」がイエレン氏のスローガンになっている。「今、動かねば、失業率の本格回復は2025年までずれ込む。今、動けば、22年回復も可能だ」。22年か25年か、共和党に決断を迫る最終通告のごとき迫力が伝わる。

これでも共和党が妥協せねば、「最後の切り札発動もやむを得ぬ」との民主党員イエレン氏の牽制の意図も透ける。

「最後の切り札」とはリコンシリエーション(財政調整法)。この単語も足元の米国政治情勢を読むにあたり必須の用語だ。51対50(副大統領が決定票を持つ)という超僅差過半数の上院で、民主党の単独強行採決を可能にする特別措置である。

バイデン大統領は、できる限り超党派での合意を目指す姿勢を貫いてきた。しかし、政権発足後100日間の「ハネムーン期間」に、コロナ対策の効果が発揮されねば、いきなり出足からつまずく結果となりかねない。それこそ、共和党、特にトランプ前大統領がほくそえむ展開となろう。ここは、新大統領にとって正念場だ。

市場も週末に敏感に政治の流れを肌で感じ取っていた。

週明け、いきなり東京株式市場「30年6カ月ぶりの高値更新」との報道がウォール街でも話題になった。

さっそく大手投資銀行からは「株価調整終了」、「間断なき株価上昇シナリオ」などの発表が相次ぐ。

ここまで強気説が支配的になると、当然、「バブル末期」説も勢いづく。特に、テスラ社が代表的な暗号資産(仮想通貨)、ビットコインにまで運用拡大方針を開示したことが、市場の警戒心を強める要因となった。

SNS(交流サイト)系個人連合の反乱の真っただ中に、マスク社長が空売り締め上げ攻勢を支持するかのごとき投稿で、火に油を注ぐ結果となったことも記憶に新しい。

いまや、トランプ・ツイートに代わり、マスク・ツイートが市場を動かす。暗号資産に関しても、理解を示す姿勢であったが、うっかり「買い」と投稿すれば、その一言が急騰を誘発するのは必至だ。マスク氏は、テスラ株非公開騒動などに際してもツイッターでの発言が問題視され、米国証券取引委員会(SEC)からイエローカードのごとき警告を受けていた。そこで、今回は、まず社として運用方針拡大の情報開示に踏み切ったようだ。

かくして、投稿型のオンライン掲示板「レディット」銘柄の株価波乱、ビットコイン相場急騰と投機的資産価格変動が相次ぎ、市場の「バブル感」も高まっているわけだ。

冷静に分析すれば、注目すべきは、市場の期待物価上昇率を示すBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)が2.21%まで上昇して、インフレ期待が高まってきたことだ。政策金利は米連邦準備理事会(FRB)が決めるが、インフレ期待は市場のセンチメント(心理)が決める。イールドカーブも一時は平たんから逆イールドになり、「不況の前兆」と気味悪がられたものだ。しかしいまや、米国長短金利差は右上がり(順イールド)で拡大の一途。見違えるような急勾配になり、イエレン財務長官の「高圧財政論」によるインフレ期待の高まりを映す現象と見られている。しかも、パウエルFRB議長は「インフレ・オーバーシュート容認」の姿勢を変えていない。

「雇用なき株高」という実体経済から遊離した現象でも、市場環境は「株高のモメンタム(勢い)」継続を明示している。

「せっかくのパーティーゆえ、お相伴にあずかり参加させてもらうが、会場の出口に近いところに陣取る。マスク氏が中締め挨拶に向かったら、すぐに出られるように」とのヘッジファンドのつぶやきが市場心理を表している。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

日経電子版マネー「豊島逸夫の金のつぶやき」でおなじみの筆者による日経マネームック最新刊です。

この書籍を購入する(ヘルプ):Amazon

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン