気候変動対策、接近する米中 CO2利用へ実証事業
三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷 尚
7月9~10日にかけ6回目となる米国と中国の戦略・経済対話が北京で開かれた。米中戦略・経済対話といえば東太平洋の安全保障問題やサイバーテロ、人民元引き上げの対立が強調されるが、エネルギーと気候変動問題は協力の目玉となる。
中国の油田で米国企業が技術開発

米中協力をけん引するケリー国務長官は上院議員時代から気候変動問題に熱心だ。2009年の第15回気候変動枠組み条約コペンハーゲン会合(COP15)の前には中国共産党幹部と何度も話し合い、両国の根回しをするなど議員外交の中心だった。オバマ第2期政権の国務長官として13年4月に中国を訪問した際に立ち上げたのがエネルギーと気候変動問題に関するワーキンググループである。米中協力は政治主導で始まったのだ。
今回、協議の成果で着目されるのは石炭火力発電所から排出される二酸化炭素(CO2)の有効利用だ。大慶油田や勝利油田など中国の主力油田は生産がピークを過ぎ、石油増進回収法(EOR)が必要になっている。EORはCO2を油層に圧入し原油回収率を高める技術。発電所などのCO2を使えばCO2削減効果も期待できる一石二鳥の仕組みだ。
米国企業はこの分野で技術力と豊富な実績で優位にある。勝利油田のEORに米国企業が参加し、米国政府が支援するテキサス州の石炭火力発電から取り出したCO2をEORで使う実証事業に、中国の国営企業と政府系金融機関が協力。投資額は10億ドル(約1000億円)になるという。
石油生産という戦略分野の技術開発に中国の投資を受け入れるのは驚きだ。米国務省担当者は「米政府の支援には限りがあり、中国資金により多数の実証事業を同時に行えれば開発期間が短縮できる」と言う。シェールガス効果が終わるころ、二酸化炭素地下貯留(CCS)と組み合わせたクリーンな石炭利用を売り出すのは米国の戦略でもある。膨大なエネルギー需要を賄うために石炭を必要とする中国の利害とも一致する。
地方自治体の排出量取引広がる
北京市や上海市と、カリフォルニア州やニューヨーク州の間での排出量取引も進む。中国は16年に排出量取引を全国規模に拡大することを考えている。米連邦環境局の電力部門のCO2排出量規制案(30年に30%削減)を受け、いくつかの州が排出量取引の共同市場を水面下で検討し始めている。低迷するEU排出量取引市場やクリーン開発市場などをしり目に、米中では地方自治体の排出量取引が広がろうとしている。
京都議定書第一約束期間は米中の不参加で効果は限定的だったとの指摘がある。しかし米国の電力部門30%削減案に呼応するかのように、中国も排出量の総量削減の可能性を述べた。世界のCO2排出量の40%以上を占める米中が手を結ぶ可能性が出始めた。
来年12月のパリ会合に向けて9月に国連気候変動サミットが開催される。原子力発電所の再稼働をめぐるエネルギー問題で揺れる日本だが、米中の動きは気になる。
[日経産業新聞2014年7月24日付]