EV、近場専用で普及を ガソリン車より節約に
フィル・キーズ(米ブルーフィールドストラテジーズ アナリスト)
シリコンバレーで日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」に乗り続けて、7月で4年目を迎えた。この経験を踏まえ、米国でのEV生活について報告しようと思う。
リーフを購入した2011年時点では、EVはまだ珍しかった。リーフを駐車するたびに「EVの乗り心地はどうですか?」「ちょっと見せてください」と聞かれたくらいだ。
公用の充電インフラ充実は難しい

今、シリコンバレーではEVをよく見かける。この間、近所のレストランに行った時には、自分のを含めて4台のリーフが駐車場に止まっていた。カリフォルニア州であれば、高速道路のカープール(複数の人間が乗車している車)専用車線をEVも走る権利があって、カープール車線を走るリーフの数が目立つ。地方新聞が取り上げていたくらいだ。
リーフを購入した時点では、充電所の数はまだ少なかった。14年現在、充電所の数はかなり増えたが、それでもEVの持ち主が頻繁に訪れる場所の充電所は満車になっていることが多い。
私は、リーフオーナー専用のフェイスブックページに参加している。そのページには「充電所にガソリン自動車が止まっていた」「充電していないEVが止まっている」といった苦情をよく見かける。EVを普及させながら、オーナーが満足に利用できる公用の充電インフラを充実させることは難しい問題のように思われる。
リーフの運転には、だいたい満足している。やはり、騒音をほとんど出さずにスムーズに走るEVの運転は楽しい。それに、リーフは故障知らずだ。整備にかかるコストが、ガソリン自動車に比べてかなり低い。厳密には調べていないが、請求書を見る限りではリーフの充電コストは月30~40ドル程度。日本に比べてガソリンが安い米国でも、ガソリン自動車に比較すると大きな節約になっている。
問題は、やはり走行距離だ。約3万マイル(4万8000キロメートル)を走破した13年秋に、リーフの充電容量が下がった。現在では高速道路と一般道路を走りながらエアコンをかけると、現実的には約45マイル(72キロメートル)程度しか走れない。近所の買い物や打ち合わせに行くならリーフを使えるが、やはり運転中は残りの電力が気になる。
消費者の運転習慣を変えられるか
走行距離が気がかりなのは私だけではないようだ。フェイスブックページでは「通勤のニーズをリーフが満たしていない」「リーフを売って別の自動車を購入した」という声が目立つ。そうした人の多くは、米ゼネラル・モーターズ(GM)のプラグイン・ハイブリッド(PHV)「ボルト」を購入しているようだ。
米国市場にEVを普及させるには、やはり走行可能距離が壁になりそうだ。大容量の電池を持つ米テスラ・モーターズの「モデルS」のような高級車を購入できる消費者の数は限られる。比較的手ごろな価格で購入できる、リーフなど低容量電池を搭載するEVは、自宅周辺での利用に限るのが現実的だろう。
米国なら、都市部に住む消費者ならEVを利用しつつ、遠距離の移動用に別の自動車をレンタルする生活が考えらる。郊外に住んでいる自動車2台を持つ家族なら、1台をガソリン車に、もう1台をEVにすることも考えられる。
実際、このように考える米国人が増えているらしい。米紙ワシントン・ポストによると、14年6月末までの6カ月間に米国市場では1万2736台のリーフが売れた。だが、リーフのような走行距離が比較的短いEVを本格的に米国市場に普及させるためには、一般の消費者の運転習慣を変えさせる必要がある。そして、消費者の習慣を変えるには大変な時間と労力がかかるものだ。
[日経産業新聞2014年7月15日付]
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