洋服の青山、クールなスマホ集客 商圏を狙い撃ち
紳士服専門店の最大手、青山商事がスマートフォン(スマホ)を使った集客に磨きをかけている。4月にスマホ向けアプリを立ち上げ、利用者が店舗の近くを訪れるとセールの案内などを配信する販促策を始めた。ネットを活用して実店舗に送客するO2O(オンライン・トゥ・オフライン)の手法だが、同社の場合はひと味違う。情報の配信エリアを自在に変更でき、例えば線路を挟んで駅の逆側にいる利用者には案内しないなどきめ細かな設定ができる。
配信エリアを円形でなく四角形で指定

「4日間限定のクーポンで清涼アイテムをゲット!」――。紳士服専門店「洋服の青山」に近づくと、スマホにメッセージが送られてくる。クリックすると、詳細なセール情報や割引クーポン、店舗の地図などを確認できる。利用料は無料だ。
「洋服の青山」は全国に約780店舗。アプリ開発にあたって採用したのは、「ジオフェンシング」と呼ばれる仕組みだ。まずデジタルの地図上で店舗の周辺など情報を配信したいエリアを指定。そこにアプリをダウンロードしたスマホを持つユーザーが近づくと、自動でメッセージを配信する。全地球測位システム(GPS)を活用している。
同様の取り組みはNTTドコモと東急百貨店などが連携して東京・渋谷で実施する事例などがある。これに対し、青山商事のアプリの最大の特徴は情報を配信するエリアを柔軟に設定できるようにした点にある。通常のジオフェンシングは、店舗など指定した場所から円形にしかエリアを設定できない場合が大半だ。同社のシステムは四角形など様々な形に設定できる。
なぜ円形でなく四角形か。それは店舗によって商圏が異なる点に着目した結果だ。店舗の近くに大きな通りがあれば、実際の商圏はそこで分断されるケースがある。大規模ショッピングセンターなどに構える店舗は、フロア内に絞って案内した方が効率がいい。

駅の南側に店舗がある場合、想定される顧客は駅の南口を利用する人たちだ。線路を隔てた北口周辺を歩いている人に情報を配信しても、集客効果を期待できるどころか、うっとうしいと思われかねない。長方形や複雑な多角形など、店舗の立地によって情報を配信するエリアが変えられる効果は大きい。
青山商事のアプリで情報を配信するエリアを四角形にする場合、管理サーバー側で事前にデジタル地図上の4点を指定し、各点の緯度と経度を登録する。一方でアプリをダウンロードした利用者のスマホの位置情報の取得機能を使い、スマホがある場所の緯度と経度を収集。事前に登録してある4点で囲ったエリアに該当するかを判定し、情報を配信する仕組みだ。

システム開発や販促を担当する藤井満典執行役員は、「いかに顧客にストレスをかけずに効率良く情報を配信できるかを考えた」と説明する。エリア設定にとどまらず、スマホの電池の消耗を抑えるようにアプリ経由での位置情報の取得の間隔も抑えた。GPSから利用者の移動速度をはじき出し、車や電車で移動する利用者にはメッセージを配信せず、徒歩や自転車の利用者に対象を絞る工夫もしている。
こうしたきめ細かなシステムを実現できたのは、アプリ開発を自社グループで内製化したためだ。関連子会社で販促物やシステム開発を担ってきたアスコン(広島県福山市)が今回のアプリ開発を手掛けた。同社の斉藤利治取締役は、「一から手作りで仕上げたアプリだからこそ細かい設定が可能になった」と指摘する。今回のアプリは自社で集客に使うだけでなく他の小売業などでも活用できるとみており、「自社で成果を検証しながら、外販もしていきたい」(斉藤氏)という。
アプリのダウンロード数は現在7万7000件超。おおむね予想通りの出だしで、利用者の反応など「分析はこれから」(藤井氏)という。来店すると100~500円の割引クーポンが当たるゲームなども提供しているほか、アプリ経由でネットショッピングができる機能も設けている。今後もアプリの内容を拡充しつつ、情報を配信するエリアや手法を見直していきながら、利用拡大を目指す。
洋服の青山の全店の顧客登録数は2000万人を超える。このうち5%に当たる100万件のアプリのダウンロードを目指す方針だ。
(川上尚志)