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失敗をマネジメント 新規事業の成功高める

栄藤稔・NTTドコモ執行役員

桜葉に薫風がそよぐころ、日米のIT(情報技術)サービス企業のトップ2人と話す機会があった。別々の機会なのだが彼らとの会話で共通するキーワードに「失敗」があった。彼らはIT分野での新規事業に挑戦している。

一人はこう言った。「新規事業成功の内訳は事業の計画・準備、信念を貫く、運からなっている。それらの比率は1対4対5だ。いくら周到に準備しても、信念と情熱を持っていても、成否の半分は運だ。つまり、どんなまともな事業計画も不確実で、失敗することが前提だ」

もう一人は、失敗を肯定的にとらえてこう言った。「失敗を許容し、できるだけ早く失敗させる。そしてその失敗から学ぶ」

この「失敗を許容する」という発言の背景はこうだった。「提案されるプロジェクトが失敗することを前提に経営を設計している。そこでは失敗というトラックレコード(業績記録)を評価する。『失敗した』と『挑戦した』は言葉の裏表である。挑戦なしに新規事業は無い。成功の裏にその10倍の失敗がある」

誰だって新規事業を起こしたいと願う。挑戦なくして成功なし。その挑戦の裏側に失敗がある。ならば経営には制度として失敗をマネジメントする仕組みが不可欠だ。

2008年に起業家のエリック・リース氏により提唱された米シリコンバレー発祥の考え方「リーンスタートアップ」は、まさに失敗を前提として、起業、言い換えれば新規事業の成功確率を上げる仕組みだ。

小さく素早く始める、Fail fast(早く失敗させる)、Pivot(ピボット)と呼ばれる方向転換(試行錯誤)を繰り返す――などの基本的な失敗のマネジメントがその中核だ。

なぜ、この考えが出てきたか? ネットサービスでは顧客起点でそのサービスのイケテル度を直接計測することができるようになったことが大きい。

方向転換の例として有名なものに動画共有サイト「ユーチューブ」がある。このサービスは初期は、なんとデート市場をターゲットにした動画サイトだった。はじめは失敗。しかし、デートとは全然関係のない動画を投稿する人が出始め、成功することになる。

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。NTTドコモ執行役員としてR&D戦略を担当

09年創業のWazeという会社は、顧客のスマートフォンの移動データをもとにカーナビ地図を作るサービスを考えた。私は「そんなのウレナイ」と創業メンバーに直接言ったことがある。それが、いつの間にか渋滞情報を実時間で共有するサービスに変わっていて、この会社を13年に米グーグルが1300億円ほどで買収した。

失敗から学ぶという視点ではFailConという活動が面白い。09年にサンフランシスコで始まり、起業家、技術者、投資家、デザイナー向けに「失敗することを学んで成功に備える」という趣旨の会合を定期的に行っている。

"Fail fast、fail cheap(早く安く失敗する)"の精神で、そのアイデアがもうダメだと一日も早く判断することを目指している。なぜか。限られた時間とコストで成功するには、挑戦を繰り返す必要があるからだ。

経営学者ピーター・ドラッカーは半世紀前に言った。「未来に関わる構想のうち、必ず失敗するものは、確実なもの、リスクのないもの、失敗しようがないものである」

計画段階で誰もが失敗しないと思うプロジェクトだけで会社を運営できるだろうか? 新しい市場に、新しくサービス・製品を投入しようとする行為の成否は不確実であり失敗があり得る。半世紀後、多くのネットサービスの成否がお客様起点で計測できるようになった。失敗を許容すること、お客様起点で試行錯誤することが失敗のマネジメントの基本になりそうだ。

[日経産業新聞2014年5月22日付]

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