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何度だって挑める 「先輩」が投資、好循環生む

スタートアップスinUSA(3)

 日本では「転石苔を生ぜず」というがスタートアップの世界は逆だ。なんども起業して、そこで得たカネを元手に次の事業を立ち上げる人々をシリアルアントレプレナー(連続起業家)と呼ぶ。当然失敗もあるが、失敗の中から次のトライが生まれる。こうしたエコシステム(生態系)はどう成り立っているのか。

トーマス・エジソンの研究所があったことで知られるカリフォルニア州メンロパーク。中心街近くに、ビッグデータ解析ソフトを手掛けるスタートアップ企業、ヌメンタの本社がある。

ヌメンタ副社長のスブタイ・アーマド氏

3社目の起業も当たり前

「この会社は、僕にとって3社目のスタートアップ」と語るのは創業期メンバーで副社長のスブタイ・アーマド(48)だ。先月、ビッグデータ解析用ソフトウエア「グロック」の提供を開始した。

同社を設立したのは、ジェフ・ホーキンス(56)。かつてPDA(携帯型情報端末)と言う言葉を生み出した「パーム」の創業者だ。ホーキンスはパームの成功後、「脳に近いコンピューター」の実現をめざし9年前にヌメンタを設立した。

アーマドの最初の起業は26歳の時。カメラで手や体の動きを認識するモーション入力技術を提供していたが、花開かなかった。めげずに動画データを加工するサービスの「イエスビデオ」を創業、成功させる。それでも満足せずホーキンスに合流した。

タブレットに接続して音を奏でる鍵盤。ベンチャー企業のミセルが開発

タブレットに接続して音を奏でる鍵盤。ベンチャー企業のミセルが開発

9年間の研究開発の間、製品による売り上げはほぼゼロ。それでも、「ジェフや経営陣の先行投資があったから、安心して研究開発に打ち込めた」(アーマド)という。成功した創業者の資金が、有能な技術者の転職へのためらいを解消し、長い研究開発を支えた。

米国で3社目のスタートアップに挑戦する日本人がいる。カリフォルニア州に拠点を置くミセルの最高経営責任者(CEO)吉川欣也(46)だ。ミセルは、アップルのiPadに接続して楽しむ「タブレット楽器」の開発を進める。普段はタブレットのケースと同様の厚みだが、ボタン一つで鍵盤が飛び出し、ピアノのように演奏ができる。

 吉川は米シスコシステムズに対抗するルーターを開発しようと1999年にアイピー・インフュージョンを創業。シリコンバレーで2000万ドル(約20億円)以上の資金を調達し、その後約5000万ドルで売却した。

ミセルの吉川欣也社長

「さて、次は何をやろうかな」と目を付けたのが楽器市場だ。「楽器は世界で6000億~7000億円程度の市場。我々が参入して1兆円になったら痛快だ」。1台当たりの価格は99ドルから149ドルで、今年前半に出荷を開始する予定。既に1200台を超える注文が入っている。

一箇所にとどまらず

「失敗か。そんなことあったかな」。シュリ・ドダニ(56)はこれまで関わった4社を、すべて成功に導いた。現在はソココ(カリフォルニア州サンノゼ)でバーチャル・オフィス用ソフトウエアを開発する。

インテルや仏アルカテルなど複数の会社を経て96年に通信系ベンチャーに参加。同社を米ナスダック市場に株式公開(調達価格は約2000億円)させた。00年には別のベンチャー企業を約550億円でインテルに売却。その後も企業売却を次々成功させてきた。

獲得した資金をもとに、エンジェルとしてスタートアップを支援している。これまでに10社程度、1社当たり1000万円から5000万円を投じた。

ソココのシュリ・ドダニ氏

「常にハードワークだった。それはこれからも変わらない」。莫大な資金を手に入れた56歳。だが引退して悠々自適の生活をすごそうという気配はない。成功した者が成功をめざす者を支援する――それが当たり前だと言わんばかりだ。

連続起業家に共通しているのは1つの場所にとどまらないこと。成功すれば挑戦者を支援する。この二つが、スタートアップ先進国を支えている。=敬称略

 シリコンバレーのベンチャー事情に詳しい米ジャフコアメリカベンチャーズの菅谷常三郎ジェネラルパートナーに日米の投資環境の違いを聞いた。

――最大の相違点はなんでしょう。

ジャフコアメリカベンチャーズの菅谷恒三郎ジェネラルパートナー

エンジェルの存在だ。シリコンバレー周辺だけで、その数は数万人を下らないだろう。彼らは皆、スタートアップで成功した人たち。こちらではよく『ペイフォワード』と言うが、次を担う若者達を育てようと出資することを意味する。自分たちがエンジェル投資を受けて成功した人々は特に、そうした思いが強い」

「日本のベンチャー投資の場合、かつては株の買い戻し条項や、失敗した場合の出資金の個人補償などが条件だった。こうした点が、失敗を恐れる傾向につながっているのではないか」

「米国のエンジェル投資ではそういった条項は無いことが多い。『君のアイデアは面白そうだから、俺の代わりに頑張ってみろ。そのために10万ドル投資するから』といったイメージだ」

――エンジェルはリスクを感じないのですか。

「米国では大企業がスタートアップを買収する。日本のベンチャーの成功事例の9割以上は株式公開だが、米国では逆に9割以上が売却だ」

「大企業はスタートアップの買収で革新的であり続けることができる。またスタートアップの『出口』が明確になることでエンジェルも増えていく。日本でも、もっと大企業によるスタートアップ買収の重要性を訴えるべきだろう」

[日経産業新聞 2014年4月3日付]

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