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言語・報酬・登用…ソニー、人材つなぎとめに腐心

 ソニーがスマートフォン(スマホ)事業を拡大している。
起点となったのは、スウェーデンのエリクソンとの折半出資会社を全額出資に切り替えたことだ。
資本面での大きな決断をしたが、デザイン力など培ったノウハウを提携解消後も維持するのが課題となった。
有力人材のつなぎとめがカギを握る――。
そう判断し、「言語」「登用」などに細心の注意を払った。=敬称略

ソニエリ時代の良さをどう引き継ぐか

「アール(曲線)は緩すぎないか」「エッジを効かせるべきだ」。午後5時。ソニーモバイルコミュニケーションズの東京本社(港区)で週1回、「シンギ」が始まる。東京、スウェーデン・ルンド、中国・北京のデザイナーら計約10人がテレビ会議で参加し、デザインについて互いに意見を戦わせる。言語は英語だ。

シンギは「ワイガヤ会議」で語源は審議。ソニーモバイルの前身でエリクソンとの合弁会社ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが2001年に発足した際、両社のデザイン文化を融合する試みとして始まった。

ソニー伝統の細部までこだわった機能美。家具大手イケアやファッションブランド、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)と同様、エリクソンが持つスウェーデン流色彩感覚。モバイル製品の世界展開に向けて、二つを融合し視覚的な分かりやすさを実現した。シンプルなデザインは「ソニエリ」の武器となっていた。

ただ、折半出資であるため、大きな経営判断にはソニー、エリクソン両方の合意が必要で時間がかかる。スマホビジネスを成長の柱と位置づけるソニーはエリクソン側の保有株を1000億円以上投じて買い取った。新会社によって意思決定の迅速化、技術力強化は見込めた。ただ、ソニエリ時代の良さ、デザイン力などをいかに引き継ぐかが課題だった。

ポイントは、やはり、人材・組織。ソニーモバイルでデザインや商品企画部門を統括する部門長、田嶋知一はこう説明する。「国籍やもとの居住地にかかわらず、新会社ではベストな人材に適切なポストで活躍してもらうことを原則とした」。

M&A(合併・買収)では、人材をつなぎとめておくことが要諦となる。変化を嫌い、一般に「有力な人材ほど辞めていく」との見方もあるほどだ。ソニーが取り組んだのが、まず言語だ。すべての資料を英語とし、1人でも外国人がいる場合は英語で会議を開く。「日本の企業だから」といった、ありがちなしがらみとは決別した。

東京―ルンド間を中心に、国をまたいだ異動をしやすくするために、語学学習や双方の文化を学ぶことへのサポートも実施した。外国だから、外国人だから動かしにくい、登用しない、は原則NG。全社員をグローバル人材ととらえ、必要なポスト、チームに大胆に投入した。現在、デザイン部門のメンバー約70人の国籍は10以上。本拠地は12年にルンドから東京に移したが、日本人は半数未満だ。田嶋は「シンギに代表されるような、グローバルなチームワーク、マインドを大切にしている」と話す。

技術者、デザイナーの交流が盛んに

必要な部分には投資を惜しまない。働き手にとって大きなインセンティブは報酬だ。異動に際しては「適切な手当」を支給した。昨年、ルンドから東京に転勤したのがスウェーデン出身のファンナ・キンブレ。家電大手エレクトロラックスなどを経てソニエリ発足時にデザイナーとして入社。今は東京のデザインオフィスのトップを務める。ソニエリの魂ともいえる人材を新会社となった今も生かし続けている。

エリクソンが手を引くことによって、働き続けることを迷わなかったのか。「もともと楽しんでいた仕事内容に変化がないことと、ソニーとの密接なコラボレーションによる新しいチャレンジを期待し、それを確認できた」とキンブレは打ち明ける。田嶋は「キンブレ氏のようなキータレントが大切だ」と説明する。

ソニエリ→ソニーモバイルへの移行は順調に進んでいるといえる。ソニーの技術力とソニエリから引き継いだデザイン力が1つになり、13年春に発売できたのが「エクスペリアZ」。ガラス板のような先鋭的なフォルムとデジカメに劣らない写真撮影機能が評価されて、日欧で大ヒットした。今年3月には後継モデル「Z2」を世界で発売、今最も注目を集めるスマホだ。写真の画質向上などにむけて、壁を越えてソニー本体の技術部門エンジニア10人以上をソニーモバイルに常駐させ、テレビ部門とも連携も深めた。技術者、デザイナーの交流が盛んになるなど、ソニーモバイル効果はソニー本体にも及ぶ。

ソニー再建を担う社長兼最高経営責任者(CEO)の平井一夫が「One Sony」と言うのは、会社や部門、組織の枠にとらわれすぎたことへの自戒が込められているようだ。資本と仕事の現場。必ずしもベクトルがいつも合っているとは限らないのが実情だ。株主でなくなったとはいえ、メリットが多かったエリクソン流を絶えさせない――。ソニーモバイルの取り組みは、多くのビジネスパーソンの指針となりそうだ。

(多部田俊輔)

[日経産業新聞 2014年4月1日付]

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