起業家よ、大志を抱け 「次のジョブズ」目指して
林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

2014/3/23 7:00
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シリコンバレーでベンチャー企業の事業プレゼンテーションを聞くと、恥ずかしげもなく「世界を変える」という言葉を繰り返すのをよく耳にする。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を23年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

シリコンバレーベンチャーの元祖、米アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏も「宇宙に衝撃を」や「人類を前進させる」といった言葉を好んで使った。一筋縄ではいかない製品開発の途上、くじけそうになった時や、どちらに進んだらいいか迷ったとき、こうした大義は指針になる。

■他人のやっていることを嘲笑する風潮

私が関わる国内ベンチャーにも、ぜひ、そうした大義を掲げてほしいと語ると「日本では大義を掲げると青臭いと投資家に鼻で笑われる」と一蹴されてしまった。日本の、特にIT(情報技術)業界周辺では、自分のやっていることを棚に上げ、他人のやっていることを嘲笑する風潮が強く、ベンチャーの健全な発展の妨げになっている。

終戦直後に立ち上がった日本のベンチャー創業者らは違った。ソニーの井深大氏は「国民生活に応用価値を有する優秀なるもの」の開発を目標に掲げ、ホンダの社是も「……日本工業の技術水準を高め、もって社会に貢献することこそ、わが社の社是」と締めくくっていた。

シリコンバレーでもITバブルの時期、一部の企業家が事業からいかに早く回収の見込みが立つかを強調したり、最初からグーグルや米ヤフーといった大企業への身売りを高らかにうたったりした。だが、そうしたベンチャーがつくる製品の薄っぺらさは、最近では投資家の前に顧客に見透かされてしまい、なかなか成功につながらない。

最近では、じっくりと腰を据えて長期的価値を提供していこうというベンチャーが増えている印象がある。特に今はインターネット常時接続でパソコン並みの性能を持つスマートフォン(スマホ)が世界中の十数億人のポケットに入っており、各国の政府や企業と個人をフラットにつなぐソーシャルメディアも普及している。これらはどちらも我々の今後の衣食住や娯楽の概念を根本から変えてしまう可能性を秘めている。

■今、我々は新しい産業革命の入り口に

2つの技術の普及により、今のIT系ベンチャーはパソコンの画面上だけで戦っていた1990年代と違い、社会の広い領域に深いつながりを持てる。それだけに最近は、シリコンバレーに限らず、世界中でスマート時代、ソーシャル時代のスケールの大きなイノベーションに取り組む人々が増えている。

大げさだと思う人は米政府のオープンデータの取り組みや、オランダのスマート農業、シリコンバレーから続出する新しい交通ベンチャーや物販系ソリューションを調べてみるといい。

今、我々はこれまでの経済や社会の概念を根本から変える新しい産業革命の入り口に立っている。そんな時代「数年間の名声で小金を蓄えるより、次のグーテンベルク、次のエジソン、次のスティーブ・ジョブズを目指した方がいい」というのが新しい世代の機運だ。

それを感じて、日本にも大きな夢と大志を抱く次世代ベンチャーの芽が次々と出始めてきている。中でも20代の創業者が率いるベンチャーは元気で、臆面なく「世界を変える」と言える健全な青臭さを持っている。

そんな彼らの気概の芽を古い世代の投資家らが嘲笑し腐らせてしまわないようにと切に思う。

[日経産業新聞2014年3月19日付]

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