ウエアラブルの未来図、五感の能力高める
安田豊・KDDI研究所会長
身につけて使う「ウエアラブル端末」の開発競争が激しくなっている。今年1月に米国で開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でも、2月にスペインで開催されたMWC(モバイル・ワールド・コングレス)でも、この分野の話題でもちきりだった。

一口に「ウエアラブル」と言っても機能は様々だ。そのまま通信ネットワークにつながるタイプのものもあるが、ブルートゥースやWi-Fiなどのローカル無線でスマートフォン(スマホ)のような通信端末に接続され、スマホを介してネットにつながるタイプのものも多い。
体への装着タイプとしては、少し前までは米グーグルが開発中の「グーグルグラス」のようなメガネ型のものと、腕時計型(リストバンド型)のものが中心だった。最近は、頭にかぶるカツラ型とか肌着への組み込み型などの取り組みも発表されている。さらに、犬猫などのペットにつけるウエアラブル端末もあるようで、バリエーションが拡大している。
これらのウエアラブル端末については、すでにいろいろなところで今後の方向性なども示されている。その基本的な使い方をもう一度整理してみると、ディスプレーを含めた情報の入出力装置としての活用を主眼にするものと、センサーとしての活用を主眼にするものとに大別される。
センサーといっても多様であるが、主に人の健康などに関わる身体のいろいろなデータを収集するものがまず挙げられる。また、人の周辺のいろいろな情報をカメラや各種センサーで収集して、それを便利に活用するタイプも多い。
私が過日参加した、高度道路交通システム(ITS)に関連する「インターネットITS協議会(IIC)」の幹事懇親会の場では、「車もウエアラブル端末の一つ」という意見が出て盛り上がった。
確かに、自動車にはもともといろいろなセンサーが組み込まれている。かつ運転席近くにカーナビゲーションシステム用ディスプレーが用意されているので、前述のウエアラブル端末の使い方との共通点は多い。自動車は、人が中に入り込むタイプの大きなウエアラブル端末と考えていいのかもしれない。
ウエアラブル端末の本質は、人に本来備わっている五感や、目、耳、口などの入出力システムの範囲や能力をさらに拡大して便利にサポートしてくれることにある。
もし、風船のような自己浮遊型の端末がいつも自分の傍らについてきて(広義のウエアラブル)、スキー場で滑っている自分の姿を空中から撮影したり、あるいは背伸びをしても見えないところを見えるようにしてくれたりすると、これは本当に楽しい。漫画の「ドラえもん」や「オバケのQ太郎」がいつも身近にいて助けてくれるイメージだ。
今回のソチ・オリンピックでは「ドローン」と呼ばれる小型の無人飛行ロボットがスキーやスノーボードなどの屋外競技の空中撮影に駆使され、これまでにない迫力映像をお茶の間に届けてくれた。
KDDI研究所でも、市販の簡易ドローンに「Vista Finder」と呼ぶ独自開発製品(スマホ活用の動画撮影・収集システム)を搭載して研究所の敷地内を飛ばし、その撮影映像を室内のパソコンでモニターするような実験をしてきた。
そのようなシステムの個人向け、つまりパーソナル版が前述の風船型ウエアラブル端末ということになる。近い将来、広い意味での各種ウエアラブル端末が私たちを助けてくれ、そしてもっと楽しませてくれるようになると期待したい。
[日経産業新聞2014年3月15日付]
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