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めげない日揮 悲劇から1年、赤道直下に新人道場

アルジェリア人質事件から16日で1年。日揮の社員ら日本人10人がテロの犠牲となったが、プラント会社は現場から逃げられない。サハラの悲劇を乗り越え、赤道直下のインドネシアへ新入社員を派遣。世界最多のイスラム教徒を抱える資源大国に「入門道場」を構え、様々なリスクに立ち向かうグローバル人材に鍛え上げる。

インドネシアで戦う23歳の新人女性

気温32度、常夏のインドネシア北東部、スラウェシ島。ジャングルに隣接する空港から1時間半ほど車で走ったへき地にその道場はある。実質は受注額2000億円級の液化天然ガス(LNG)プラント。事業名は「ドンギ・スノロLNGプロジェクト」という。

開発主体は三菱商事で、日揮がプラント建設を受注した。2011年4月に着工、今秋の完成に向け詰めの作業が進む。現場作業員は最大5千人規模で、日本から出向する日揮社員は約40人。ここに新入社員約20人が加わった。

「この部分の加工をお願いします」。覚えたてのインドネシア語で必死に作業員に指示する女性がいる。新人の中野響子さん(23)だ。財務部の配属だが昨年9月、新人研修でドンギ入りした。

当初はコスト管理を担う内勤だったが、12月から、建設現場のリーダーであるスーパーバイザーに任命された。大学は法学部で技術は詳しくない。唯一の休日である日曜日も返上し、仕事の習得に必死だ。

さらなる壁が労務管理だ。地元自治体との取り決めで作業員の5割超が近隣の村民。このプラントの建設が始まるまで時計を見て動く仕事をしたことのない人は陽気だが、あまり仕事熱心とは言えない。断りもなく、作業員が休みを取るのは日常茶飯事。しかもイスラム教徒は1日5回のお祈りもあれば、年に1カ月近い「ラマダン」と呼ぶ断食月もある。

中野さん(右から2人目)ら、LNGプラントの現場に立つ日揮の新入社員

現場責任者である奥照一サイトマネジャーは「プライドの高いインドネシア人は怒ったらダメ。仕返しされる」と話す。下手な対応は禁物で、下請け業者の担当者に対し、作業員から脅迫メールが届いたこともあるのだという。

ただ、中野さんは負けていない。「若くて何も知らないと見られ、なめられている」。今の仕事に就いて1カ月が過ぎたが、達成感を得たことはないという。「生きるか死ぬか」の思いで言葉を学び、日曜日も午前中は現場で過ごす。

中野さんの管轄のすぐ近くのエリア。180センチメートルを超える体格の金田雄樹さん(23)の仕事ぶりは堂に入っている。早口かつ大声のインドネシア語で、作業員に指示を与える。金田さんも新入社員。学生時代はラグビーで鳴らした。

スーパーバイザーになったのは12月。最初はインドネシア人の曖昧な対応に「作業員には期日がないけど僕らにはある」と焦った。相手に意図が伝わる方法はないかと考えた。絵を描き「ここを加工するのだ」と指で指し目に力を込めた。

現場作業員に愛される巨漢のラガーマン

インドネシア人の作業員に指示を出す金田さん(右)

日々感じるのは、詳細な情報を早く提供する大切さという。少しでも対応が遅れると、作業員は聞かなくなる。そのための工夫もしている。「重要度の高いことを見極め先に処理していく。常に余裕を持つことが早い対応につながる」

金田さんの所属は建設部。日揮にいる限り、世界各地のプロジェクトを渡り歩くことになる。「大学の研究テーマだったアルジェリアで仕事がしたい」。現場になじんできた最近は作業員から「カネター!」と声がかかることも多い。

日揮は、今年度から新人全員のプラント派遣を始めた。「現場で感じることが最も大切」(重久吉弘グループ代表)と考えるからだ。派遣場所はドンギ以外にカタール、パプアニューギニアなど。いずれも過酷な労働環境だ。

新入社員はこの現場で6カ月を過ごす。朝5時には起床し、6時ごろから夕方6時ごろまで仕事に汗を流す。まさに缶詰め状態のプラント合宿。日曜日以外にまとまった休日はなく、年末年始も建設が止まったのは元日だけだった。

プレハブ小屋が並ぶキャンプ内では午後8時に食堂が閉まり、宗教の関係もあり酒もご法度。ただ新入社員の意欲は高い。「日本食も用意されるし、生活はとても充実している」とパイプの設計変更などを担う赤松直さん(25)は実感を込める。

「そこまで頑張らなくてもいい、と感じることもある」とドンギの大村公寿プロジェクトマネジャーは言う。ただ「なめられたらこの仕事はできない。簡単には死ねない」(中野さん)。気骨のあるサムライは確かに育っている。

(北西厚一)

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