/

ロボットW杯も熱い! 物流・災害救援…疲れ知らず

米グーグルや米アマゾン・ドット・コムが企業買収し、脚光を浴びるロボット業界。次の注目は7月にブラジルで開催されるワールドカップだ。サッカーの話ではない。ロボット国際競技会「ロボカップ」だ。一方、米国でも災害救援ロボットの競技会決勝戦に日本チームが臨む。今や世界の投資家やハイテク企業の合言葉は「ゲット・ロボ!」――。最高のロボットを手に入れろ。

過酷な労働の解決策

「疲れや暑さを訴えないから効率改善に限界はない」。アマゾンが世界各地に抱える大型物流センター。作業員の制服と同じオレンジ色の物流ロボット「マジックシェルフ」1000台以上が3カ所で走り始めた。

アマゾンの悩みは物流問題だ。クリスマス商戦時には数万人の臨時雇用で人件費が跳ね上がる。物流センターでは作業員が30秒ごとに商品を集めるため歩行距離は1日17キロに達すると欧米メディアが報じ、過酷な労働にも非難が集まる。

その解決策としてアマゾンは、2012年に米キバ・システムズを7億7500万ドル(約780億円)で買収。キバの共同創業者ラファエロ・ダンドレア氏はロボカップの常連。現在はスイスで無人ヘリを研究する。「ロボカップがダンドレア氏の研究を後押しし、物流ロボットの源流を作った」(関係者)。日米のロボット企業を買収する米グーグルや買収された企業にもロボカップ参加者が大量に在籍する。

昨年末、アマゾンは配達用小型無人ヘリの開発計画を表明、次は空飛ぶ物流ロボに挑む。

ソフトバンクが12年に1億ドルを投じて大株主となったフランスのロボット開発大手、アルデバラン・ロボティクスもロボカップにヒト型ロボット「NAO(ナオ)」を提供して技術を蓄積。世界の研究機関などに最も納入されているロボットとなった。

創生期はソニーが支える

ロボカップの源流は日本だ。ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明所長らが1993年に「50年までにサッカーのワールドカップ(W杯)優勝チームにロボットが勝つ」との目標を掲げて創設されたロボット版W杯だ。北野氏は国際組織の初代会長に就き、97年に1回目の大会を名古屋で開いた。

創生期はソニーが支えた。北野氏がその前身の開発に携わったペット型ロボット「AIBO(アイボ)」を使ってサッカーを競う「AIBOリーグ」を開催した。06年にロボット事業から撤退するが、ソニーがロボカップに協力しなければロボット開発が進まなかった可能性もある。グーグルが買収したロボット開発の米ボストン・ダイナミクスもソニーがAIBOの一部開発を委託することで技術を蓄積した。

「サッカーを題材に使ったことがロボットの進歩に役立った」。人工知能の専門家で、14年夏からロボカップ組織の5代目会長に就く産業技術総合研究所の野田五十樹・サービス設計支援研究技術チーム長は指摘する。

野田氏によると、チェスなどでロボットが人間に勝利してきたが、人間は社会での集団行動が特徴。サッカーを通じて対戦相手の動きを予測したり、味方とやりとりしたりすることで技術を蓄積できた。北野氏は「アポロ計画のような大きな目標を立てたことがよかった」と振り返る。

原発の事故処理で活躍

その貢献はITにとどまらない。01年の米シアトル大会から「がれきの中から被災者を捜し出す」ことなどに挑戦するレスキュー部門が新設。ロボカップに参加した米大学のチームが米国同時多発テロ事件でパックボットの原型を用いて救助活動を行った。

東京電力福島第1原子力発電所の事故処理で活躍した東北大と千葉工業大が開発したロボット「クインス」も、原型の「ケナフ」がロボカップに優勝した経緯を持つ。東北大の田所諭教授は「ロボカップがなければクインスはなく、原発問題でさらに重大な事態に陥っていた可能性もある」と指摘する。

福島第1ではクインスだけでなく、飛んだり、水中に潜ったりする20種類以上のロボットが活躍。政府はすべての廃炉を決定したが、現地では強い放射性物質が残る。人間の作業が難しいだけに、ロボット開発の行方が廃炉できるかを左右するかもしれない。

昨年6月にオランダで開催されたロボカップには43カ国から407チーム2631人が参加した。大阪大と大阪工業大の共同チーム「ジョイテック」がヒト型ロボットで世界トップを獲得。大阪大はロボカップ提唱者の1人で2代目会長となった浅田稔教授のお膝元で面目躍如となった。7月のブラジルではサッカーだけでなく、ロボットにも熱い視線が注がれそうだ。

(多部田俊輔)

米も災害救援で競技会、フクシマが教訓

 インターネットを生み出し、ロボット開発にも大きな役割を担ってきた米国の国防総省国防高等研究計画局(DARPA)。自動運転車ブームも仕掛けたDARPAがいま力を入れているのは、災害救援ロボットの開発だ。昨年12月の競技会「ロボティクス・チャレンジ」の予選には、日米など4カ国から16チームが出場。日本のチームを含む8チームが今年12月に開く決勝への進出を決めた。競技会の狙いや実用化の課題について責任者のギル・プラット氏に聞いた。

――なぜ今、災害救援ロボットなんですか。

「福島第1原子力発電所の事故がきっかけだ。あのとき、我々は過去に開発を支援したロボットメーカーや専門家と連携し、現地にロボットを送り込んだ。だが、結果的に災害の拡大を食い止めることができず、非常に落ち込んだ。あの教訓から緊急事態に即応できるロボットの開発を後押しするプロジェクトを立ち上げた」

――ゴールはどこですか。

「災害が起きた後の復旧作業ではなく、災害が起きている最中に投入して被害を減らすことができるロボットの開発だ。人間が近づけないほど危険で、通信環境も劣悪な状況でもきちんと活動できるロボットの開発を目指している」

――昨年12月の予選の評価はどうですか。

「競技会を開く前は、04年に主催した最初の無人自動車レースと同程度(15チームが参加し、完走ゼロ)の結果を予想していた。ふたを開けてみれば、4チームが32点満点中16点以上を獲得。将来、災害現場で活躍できる可能性を示したという意味では、期待を上回る内容だった。もっとも、改善点は多く、まだまだ実用的とはいえない」

――具体的に教えて下さい。

「今回出場したロボットの運動能力は、人間でいえば1歳児程度。知能レベルは1歳児の方がはるかに高い。倒れても自分で起き上がることができないので命綱が必要だし、各競技の課題をこなすのにも、操縦者が1つ1つの動作を細かく指示する必要がある。決勝では、倒れたら自分で起き上がったり、『行ってドアを開けろ』と指示すれば一連の動作をこなしたりする自律性の向上を期待したい」

――実用化に向けた最大の課題は何ですか。

「市場の開拓だ。災害対策の市場は非常に小さく、それだけではビジネスとして成り立ちにくい。個人的には医療や介護、農業、建設などの分野がロボットの大きな市場になると見ており、この競技会で磨かれた技術を生かすことができると考えている」

――日本の経済産業省と災害救援ロボットの共同研究で合意しました。

「非常に期待している。(東大発ロボットベンチャーの)SCHAFT(シャフト)が競技会の予選を首位で通過したが、ロボットに関する日本の技術力は非常に高い。我々の競技会で優勝するロボットも完璧ではなく、さらなる進歩が必要だ。災害救援ロボットの競技会を次に開くとすれば、日本を置いてほかにないと考えており、ぜひ実現させたい」

(ニューヨーク=小川義也)

◇    ◇

▼DARPA 「Defense Advanced Research Projects Agency」の略称。1958年に創設された米国防総省傘下の研究機関。インターネットの原型や全地球測位システム(GPS)などを開発したことで知られる。ロボットとの関わりも深い。60年代に米スタンフォード研究所で誕生した世界初の移動型ロボット「シェーキー」の開発資金を提供。2004年と05年には運転手なしで自動走行するロボット自動車のレースを開催。自動運転車の開発競争の起点となった。米グーグルが昨年12月に買収したロボット開発企業、米ボストン・ダイナミクスの創業者、マーク・レイバート氏は「DARPAがロボット開発に果たしてきた役割は非常に大きい」と語る。

[日経産業新聞2014年1月6日付]

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン