米エネルギー革新、息吹再び 新事業の創出促す
編集委員 安藤淳
中国に次ぐ世界第2位の温暖化ガス排出国である米国。再生可能エネルギーや省エネの技術を新産業につなげる「グリーン・ニューディール」は失速した印象を受ける。しかしオバマ大統領は6月に地球環境対策などをまとめた新たな「クライメート・アクション・プラン」(気候行動計画)を発表。州単位の地道な取り組みも広がり、研究開発は再び活発化の兆しがある。
研究開発6拠点を整備
名称 | 採択 時期 | 参加機関 | 目標 |
軽水炉先端シミュレーション・コンソーシアム | 2010年 5月 | オークリッジ国立研究所など10機関 | 原子炉の安全性、経済性などを予測評価できるモデリング、シミュレーション技術の開発 |
人工光合成共同センター | 2010年 7月 | カリフォルニア工科大学など7機関 | 作物の光合成の10倍以上の効率で太陽光、水、炭素から燃料を生成する方法を開発 |
高効率エネルギー建物ハブ | 2010年 8月 | ペンシルベニア州立大学など27機関 | 2020年までに商業用建物のエネルギー消費を20%削減する手法を開発 |
エネルギー貯蔵研究共同センター | 2012年 11月 | アルゴンヌ国立研究所など14機関 | 現行のリチウムイオン電池を基準に5年内にエネルギー貯蔵性能を5倍に、コストを5分の1にする |
戦略材料研究所 | 2013年 1月 | エイムズ研究所など18機関 | 希土類元素に代表されるエネルギー分野の戦略材料の安定供給を可能にする |
未定(エネルギー伝送関連) | 2014会計年度を予定 | 未定 | 未定 |
自動車の厳しい燃費規制で知られるカリフォルニア州。2020年までに発電量の3分の1を再生エネにすると定め、既に20%を超えた。人口5千人のウエスト・ビレッジ地区では太陽光発電や省エネの促進により、電力需要を事実上すべて自前で賄う「ネット・ゼロ・エネルギー」を実現しているという。
同州大気資源委員会の委員で、燃費規制づくりを主導してきた米カリフォルニア大学デービス校のダニエル・スパーリング教授は「州や自治体の環境対策は大きく前進した」と説明する。電気自動車の購入者に対し、1台あたり2500~5000ドル(約26万~52万円)の税の優遇措置を導入した州もある。
米エネルギー省の研究開発費も減っていない。科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)のまとめでは、研究開発を担う科学局、エネルギー効率・再生可能エネルギー局など6局の合計予算は年80億ドルを超える水準で推移。14会計年度(13年10月~14年9月)は前年度比約17%増の約102億ドルを見込む。
なかでも力を入れているのは基礎、応用から産業化のための研究開発までを集約したエネルギー・イノベーション・ハブだ。原爆開発につながったマンハッタン計画や、通信・計算技術の開発をけん引したAT&Tベル研究所をモデルに6拠点の整備を進める。
ペンシルベニア州の「高効率エネルギー建物ハブ」やカリフォルニア州の「人工光合成共同センター」などがある。産官学の研究者が共同施設で新技術の実証試験やシステム構築の研究、経済性評価などをする。
化石燃料の燃焼で出る二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)やバイオ燃料技術にも重点投資する。自前技術にこだわらず、海外からもノウハウを取り入れ実用化を急ぐ。CCSではローレンス・バークレー国立研究所が日本の地球環境産業技術研究機構(RITE)と、地層水の排出や地熱利用が可能な次世代CCSを共同研究する。
シェール革命も追い風だが…
バイオ燃料では繊維分の処理が難しい非食料のセルロース原料からエタノールなどを生産する計画が難航していたが、中核機関の国立再生エネルギー研究所(NREL)がRITEの技術導入を決定。遅れを取り戻そうとしている。
「グリーン・イノベーション」でかつてのIT(情報技術)やバイオに匹敵するベンチャー投資ブームは起きていない。しかし、イノベーション・ハブなどが「収穫期」を迎えるここ2、3年は「どのような新事業が創出されるか目が離せない」(CRDSの金子直哉フェロー)。
シェールガス革命も米国の温暖化対策には追い風だ。発電電力量に占める石炭火力の比率は最近10年間に50%から40%に低下。1キロワット時を発電するのに、シェールガスを使うと石炭火力の場合に比べCO2排出量は半分程度に減る。
ただ、シェール革命は化石燃料の枯渇問題を忘れさせ、再生エネの利用意欲を鈍らせる可能性もある。スパーリング教授によると、「石油会社の投資額のうち再生エネ関連は1%程度」。これを拡大するには「化石燃料資源の確保量によって石油会社の企業価値が判断される現状を変える必要がある」と指摘する。
[日経産業新聞2013年12月26日付]