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楽天球団とジョブズから学ぶ 起業家の挑む気持ち

岩瀬大輔・ライフネット生命保険社長

起業家として当然持っているべき資質とは何だろうか。日本のインターネット業界には「我こそは」とベンチャーに挑む人がいまもそれなりに多いが、小中学生の世代にまで起業家予備軍をつないでいくために必要なこととは何か。11月に入ってから、こうしたことを深く考えさせられる出来事が重なった。

東大法学部在学中に司法試験合格。ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、06年ハーバード経営大学院修了。09年副社長、13年より現職。37歳。

11月3日、私は仙台市にいた。プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスが初の日本一に王手をかけた決戦に立ち会ったのだ。ゼロから立ち上げた球団が9年目に日本シリーズ初優勝を収めたその瞬間を思い起こすだけで、部外者ながらいまだに鳥肌が立つほどの興奮がよみがえる。

一緒に観戦したのが、楽天野球団の創業を主導した3人だったことも私の感動のボルテージを上げた。ヤフーの小沢隆生執行役員、ビズリーチ(東京・渋谷)の南壮一郎社長、スターフェスティバル(東京・港)の岸田祐介社長の3人。何しろ、2005年に球団をベンチャーのように手作りした張本人たちから幸運にもとっておきの小話を直接聞きながら観戦できた。

ホームグラウンドで楽天が採り入れた仕掛けは、新規参入者ゆえのイノベーションが詰め込まれている。ゲームが7回にさしかかると、客席では風船を売り始めるが、4個セットで販売する。子ども連れの家族が楽しめるようにという配慮と、まとめ売りで球場の収益向上を両立する狙いだ。チアリーダー養成の学校まで現地に設け、地域社会に根ざす仕組みを築いた。

3人によれば「10年でリーグ優勝、15年で日本シリーズ優勝」が当初の目標だったという。初年度は97敗と惨敗したが、大幅に前倒しで王座をつかんだことになる。球団発足からのスピード優勝はまさに、成功したベンチャーの軌跡と相通じるものがある。彼らと話していて感じたが、その成否を分けるのは意外と、「心持ち」なのではないか。つまり「自分にもできるはずだ」と思って高みを目指し、「こうありたい」と挑戦する姿勢があるかないかだ。

その直後に、映画「スティーブ・ジョブズ」を観に行った。猛烈に感動し、観賞中に涙があふれるのを止められなかったほどだ。人間的には様々な欠点を持ちながらも「世の中にない優れたプロダクトを作りたい」という純粋な思いを支えにアップルという会社を通じて世界を変えていったジョブズの姿があった。

楽天優勝とジョブズの映画から改めて考えた起業家に欠かせない資質とはこうだ。自分の信じるビジネスモデルや技術をもとに新しい世界観をつくり出し、それが人々の生活を変えたり心をゆさぶったりすることにひたすら向かっていく力。自分も勤め人だった経験があるからわかるが、それを妨げるのは典型的な会社員的発想だ。

そんな折、年下の女性の友人からキャリア相談を受けた。外資系化粧品メーカーでマーケティングに携わる優秀な人物だ。今後のキャリアプランを描くうえで葛藤があるようだった。転職も視野に入れているというが、本気でやりたいという熱のようなものまでは伝わってこなかった。問いを重ねていくうちに、どうも起業に関心を寄せているようだと察した。

起業のプランは面白い内容だったし、やり方次第でうまくいくように見えたが、彼女自身が「できない理由」をいくつも挙げて自らにブレーキをかける様子が気にかかった。聞けば自分の夫や友人など信頼できる周囲の人たちにすでに相談をしたという。「君にはベンチャーは向いてない」「あなたは根気がないからやめておいた方がいい」と忠告され、一歩を踏み切れないのだという。

生まれながらの起業家などめったにいない。違いは、志や世界観を強く持てるかどうか。起業家からダメ出しされるのなら慎重になるのもいいが、評論家風の人からやめるよう諭されるだけなら諦める必要はない。元をたどれば、わずかな分かれ道なのだ。起業家になっていった身の回りの多くの人々を見て、そう断言できる。

[日経産業新聞2013年11月15日付]

 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏、KDDI研究所会長の安田豊氏、LINE社長の森川亮氏、ライフネット生命社長の岩瀬大輔氏、NTTドコモ執行役員の栄藤稔氏らが持ち回りで執筆しています。(週1回程度で随時掲載)

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