有名大がネット授業、無料オンライン教育の可能性
(三淵啓自)
有名大学がインターネット上で授業を無料公開する動きが加速している。米スタンフォード大学が中心となり昨年春に「Udacity」や「Coursera」が発足。同年5月には米ハーバード大学と米マサチューセッツ工科大学(MIT)が「edX」を立ち上げた。両校は3000万ドルずつ出資し、オープンソースのオンライン教育プラットフォームを運営する。現在550以上の講座が公開され、700万人以上が受講している。
(2)「ムーク」と呼ばれる大規模な公開オンラインが注目を集めている。
(3)情報化社会が進むほど誰もが教育を受けられ教育する側にもなれる。
日本では東京大学が今秋にもCourseraに、京都大学が来春からedXで、英語の講義を開始する。10月11日には日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)が発足。来年4月から東大、京大、慶応義塾大学、早稲田大学など全国13大学が日本語をベースに歴史、コンピューターサイエンス、サブカルチャー論などを講義する。通常講義の中継や配信ではなく、オンライン教材として撮影・編集。理解度を小刻みに確認しながら学べる。
宿題を提出したり、試験を受けたりして一定水準に達せば、講座ごとに修了証がもらえる。受講生は名前やメールアドレスなどを登録し無料で受けられる。100万人規模のサービスを目指す。
こうした大規模公開オンライン講座は「MOOC(ムーク)」と呼ばれている。1962年に米国のダグラス・エンゲルバート氏がコンピューターを用いた講義運営のフレームワークを提示。71年にはイヴァン・イリイチ氏がネット技術を使い、多くの学生が参加可能な学習効率の高い教育システムを作り「学校のない社会」を提唱した。
すなわち(1)学びたい人はいつでもどこでも学習リソースにアクセスできる(2)学びたい人が何を知りたいかを共有できる(3)公共の知識として広めたいと思う知識を知りたい人に伝える――この3つを良い教育の条件としたのだ。

中学や高校でもオープンなオンライン教育を進め、入学や卒業時期も自由になれば、海外の大学への進学もしやすい。海外在住者でも日本の中高等教育が受けられるようになる。米国では今年、モンゴル出身の15歳の少年がedXで優秀な成績を修め、MITに入学した。意欲さえあれば場所も貧富の差も民族も関係なく機会が与えられ、新しい可能性を築ける教育システムが動き始めたといえる。
ただムークは試行錯誤の段階だ。有名な教授の授業を活用して世界中から学生を集められる大学と、ムークを利用して質の向上を安価にしようとする大学との二極化が始まっているともいわれる。財政難に悩む州政府は有名大のネット授業利用を推進しており、専門教員の人員削減につながるとの声もある。
しかし教育の自由は保障されるべきで、巨大な予算をかけなくても教育システムは構築できる。カーンアカデミーのように個人が教材を作り配信することも可能だ。3000本以上の教材を無料で誰でも見ることができ、米国では学校でも教材に利用するところも増えてきた。ネット教材を使い自分のペースで勉強し学校では補足説明をする。学校教育の在り方すら変化し始めているのである。
デジタルハリウッド大学院(東京・千代田)には学校というメタファーを活用しながら、誰でも生徒にも先生にもなれるロールプレーゲームのような教育システムがある。週に数回の授業に400人以上の生徒が受講する。地理的な制約も金銭の制約もなく、誰でも教育が受けられ教育する側にもなれる社会がすぐそこまで来ている。
[日経MJ2013年11月8日付]