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太平洋に眠る「宝」争奪戦 日本は戦略づくり急げ

編集委員 久保田啓介

太平洋の海底にハイテク製品に不可欠なレアアース(希土類)などが豊富に眠ることが分かり、フランスや中国が探査・開発へ触手を伸ばしている。日本の排他的経済水域(EEZ)でも有望な資源が見つかったが、本格探査に向けて政府の動きは鈍い。商業化できるかは未知数とはいえ、日本も官民がもっと連携し、スピード感をもって探査や技術開発に挑むべきだ。

陸の鉱山の約1000倍の資源量

日本近海の海底資源の量と開発状況
回収想定量開発状況
メタンハイドレート
4.1兆立方メートル愛知・三重県沖で洋上産出に成功。10年後の商業化めざし技術開発
熱水鉱床
4.5億トン沖縄、伊豆諸島近海など。10年後以降の商業化めざし技術開発
コバルトリッチクラスト
11億トン小笠原、沖ノ鳥島近海など。生産技術を調査
レアアース泥
国内消費量の230年分以上(ジスプロシウム)南鳥島近海。3年かけ基礎調査

(注)回収想定量は日本プロジェクト産業協議会、東大・加藤教授らによる

「日本は海底資源の発見で先行したのに、水面下で積極的に動いているのはフランスや中国。これでは世界的な資源争奪戦に勝てない」。東京大学の加藤泰浩教授は、海底資源開発をめぐる関係省庁の動きの鈍さにいら立ちを隠さない。

加藤教授らは2012年、小笠原諸島・南鳥島(東京都)沖で、高性能磁石に欠かせないジスプロシウムなどを豊富に含む「レアアース泥」を発見。ほかにも南太平洋の仏領タヒチ島や米ハワイ島の周辺にレアアース泥が集積し、陸の鉱山の約1000倍の資源量があると報告した。

これに機敏に反応したのがフランスや中国だ。海底油田開発で実績のある仏エンジニアリング大手テクニップが強い関心を示しているほか、レアアース加工で世界指折りの技術をもつ仏ロディアが中国企業と提携する動きも報じられた。中国は南太平洋の公海での鉱物資源探査を、認可権をもつ国際海底機構(ISA)に相次ぎ申請、中仏による共同開発も取り沙汰されている。

中国は陸に豊富なレアアース鉱床をもち、世界生産量の9割以上を握る。だが一緒に産出する放射性物質トリウムが起こす深刻な環境問題に直面している。海底のレアアースは放射性物質を伴わず、陸に代わる資源として早期の商業化をにらんでいるようだ。

一方で、日本の動きは鈍い。南鳥島近海のレアアース資源の採取では、船からパイプをおろし、圧縮空気を送って泥を吸い上げる方法が有望とみられ、「国内企業は既に基礎技術をもっている」(加藤教授)。

だが政府が今年4月に決めた海洋基本計画では「基礎的な科学研究を進め、3年間程度かけて資源量の概略を調べる」と、本格探査や関連技術の開発は見送られた。経済産業省や文部科学省の14年度予算の概算要求でも基礎的な調査研究費が盛られただけだ。

海外権益確保に注力してきたが…

これに対し、海洋関連企業や研究者からは「政府機関の役割分担や連携が曖昧で、技術を生かす機会がない」と不満が漏れてくる。

これまで海底資源の調査は主に文科省所管の海洋研究開発機構(JAMSTEC)が担ってきた。だが同機構は科学研究が主目的で、実用化に向けての役割がはっきりしない。

商業開発を担う経産省所管の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は近年、ベトナムや中央アジアなど海外鉱山の権益確保に力を注いできた。"国産"資源が採れるとなると、海外権益確保の意味が薄れるため、海底資源の開発に消極的なのでは、と疑う研究者もいる。

日本の海洋政策は長く「司令塔不在」が指摘され、6年前にようやく首相を本部長に関係省庁が集まる「総合海洋政策本部」が発足した。

だが縦割りはなお続き、天然ガスの一種メタンハイドレートなどの資源開発や、洋上風力発電の導入拡大でも政府全体の戦略が見えてこない。

海底資源で中仏が攻勢を強めるなか、日本も本格探査や商業化を視野に入れた戦略づくりは待ったなしだ。足元では関係省庁が連携を強めるとともに、長い目で研究機関を再編・統合し、海洋資源の調査から商業化を一元的に担う組織づくりを考えるときだ。

[日経産業新聞2013年10月31日付]

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