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災害に強い衛星通信、イプシロンが育む夢

安田豊・KDDI研究所会長

今から50年前の1963年11月22日(日本時間23日)、日米間初の衛星テレビ中継実験のライブ映像画面に米国のジョン・F・ケネディ大統領暗殺のニュースが飛び込んできた。

1975年京大工・大学院卒、KDD入社。デジタル衛星通信の研究開発に従事。移動通信のシステム開発などを経て03年KDDI執行役員。11年にKDDI研究所会長に就任。

当時中学1年生で宇宙やロケットが大好きだった私は、自宅の白黒テレビで眠い眼をこすりながら必死でテレビ中継の様子を見ていてこのニュースに接し、大変な衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。

この衛星テレビ中継はKDD(当時)の茨城衛星通信所(この時は宇宙通信実験所と呼ばれていた)経由でNHKをはじめとする関係機関の協力により実施された。その技術成果をベースにして、翌1964年の東京オリンピックの各競技の様子(カラー映像含む)が、衛星経由で世界各国に初めてライブ中継された。

これは当時の日本の技術力を世界に示す大きな事例の一つとなり、私自身のその後の進路にも大きな影響を与えることとなった。

オリンピックやサッカーのワールドカップなどの国際テレビ中継映像は、最近ではほとんどが大容量の光海底ケーブル経由で送られている。衛星通信は船や飛行機などの移動体との通信や1対多の同報型通信、山間部や離島との通信などに主たる利用が移ってきている。

ただ、一昨年の東日本大震災の際には衛星通信が活躍した。携帯電話の通信サービスが受けられなくなった場所で、車載型の小型衛星基地局に加えて、避難所などの現場に持ち込まれた超小型の基地局(フェムトセル)を衛星通信で結び、その周辺で通常の携帯電話の利用を可能とするシステムをKDDIをはじめとする通信各社が臨時に提供した。これにより、衛星通信が非常時や災害時に強いことがあらためて認識された。

最近では、降雨による信号減衰が大きいことなどから敬遠されがちであった高い周波数帯を利用する大容量の通信衛星の実用例が世界的に増えてきている。また今年日本で打ち上げに成功した「イプシロンロケット」などの活用も含めて、今後は衛星打ち上げコストの大幅な低減も期待できる。

通信トラフィックの急増や機器間通信(M2M)時代への対処も含めて、これまでの常識にとらわれない多様な目的で衛星の積極的な活用を考えることが重要だろう。

赤道上空に静止する衛星3個を使って世界を結ぶ通信が実現できることを、英国のSF作家アーサー・C・クラークが提唱したのは、1940年代のことであった。

この構想は、世界中の多くの若者に夢を与え、世界の科学者や技術者を通信衛星の実現に向けた研究開発に駆り立て、約20年後に赤道上空3万6千キロメートルの軌道を、地球の自転に同期して回る静止衛星が実用化された。

広大な宇宙は、今も私たちの大きな夢とロマンをかきたて続けている。アーサー・C・クラークは映画「2001年宇宙の旅」の原作者としても知られるが、地球から宇宙に簡単に昇っていける「宇宙エレベータ」構想も提唱していた。

童話の「ジャックと豆の木」のようなこの構想については、東京スカイツリーを施工した日本の大手建設会社が、「地上3万6千キロメートルに静止する宇宙ステーションと地球を結ぶエレベータ」を2050年ごろの実現を目指して探究するとのこと。人類は常に夢の実現に向けて歩んできた。今後の進展に大いに期待したい。

[日経産業新聞2013年10月25日付]
 この連載は変革期を迎えたデジタル社会の今を知るためのキーパーソンによる寄稿です。ツイッター日本法人代表の近藤正晃ジェームス氏、ネットイヤーグループ社長の石黒不二代氏、KDDI研究所会長の安田豊氏、LINE社長の森川亮氏、ライフネット生命社長の岩瀬大輔氏、NTTドコモ執行役員の栄藤稔氏らが持ち回りで執筆しています。(週1回程度で随時掲載)

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