石油危機40年 中東依存に逆戻り アジア、需要増大止まらず
世界経済を混乱に陥れた第1次石油危機から今月で40年。米国を起点とするシェール革命が、それ以来の衝撃で世界のエネルギー地図を塗り替えつつある。大生産国としての米国の台頭は、石油の将来をどう変えるのか。中国やインドなど新興国の増大する需要を誰が満たすのか。日本企業も変革のうねりから逃れるわけにはいかない。
「米国は4、5年のうちにサウジ抜く」

「こんな経験、一生に一度だと思うよ」。米ノースダコタ州ウィリストン。市の経済開発局に勤めるショーン・ウェンコ氏は目を輝かせる。
この地域に広がる頁岩(けつがん=シェール)層から原油を効率よく生産できるようになり、ほんの数年前まで過疎化に悩んでいた町は突如、全米が注目する「ブームタウン」に変わった。石油産業が大挙して押し寄せた結果、人口は2年間で2.2倍の3万8000人に急増した。
国際エネルギー機関(IEA)のチーフエコノミスト、ファティ・ビロル氏はシェールオイルやシェールガスの生産拡大で「米国は4、5年のうちにサウジアラビアを抜き、世界最大の原油生産国になる」と語る。
米フォード・モーターのピックアップトラック「F-150」。「ガソリンがぶ飲み」と呼ばれ、6~7年前にはガソリン高の逆風を受けてビッグスリー衰退の代名詞にもなった存在が、今やフォードの米販売の3分の1を占める。ジョー・ヒンリシュ上級副社長は「米国民のエネルギーへの楽観論が追い風になっている」と証言する。
シェール革命で浮上するシナリオ
帝京平成大学の須藤繁教授は「シェール革命により、エネルギー供給の中心は中東から米州へ移り、"石油の時代"は考えられていた以上に続く」と指摘する。IEAによると世界の1次エネルギーに占める比率は2010年で石油が32%、天然ガスが22%。35年には各27%、24%と差は縮むが依然、石油が上回る。
世界経済の成長を支えてきた原油は、産出地が集中する中東の政治的不安定に絶えず揺さぶられてきた。シェール革命はこの不安から世界を解放するのか――。実はアジアには中東への依存度が増す、逆のシナリオが待っている。
「クルマは楽しい。生活に欠かせない」。中国中部の河南省鄭州。日産自動車の多目的スポーツ車(SUV)「パラディン」に乗る国有企業社員の賈豫さんは話す。
中国・インド、自動車普及が加速

景気減速懸念を強める中国だが、モータリゼーションの波が止まる兆しはみられない。世界最大の市場である中国の新車販売は12年に1930万台と米国の1.3倍に拡大した。しかし総人口に対する普及率は1割と、先進国に比べまだ、格段に低い。
中国の石油消費量は世界2位。今後も年5%強のペースで成長が続き、20年には米国を抜くとの予測もある。自動車普及が本番を迎えるインドも事情は同じだ。
米国の原油輸入の中東離れが進む一方、増大するアジアの需要に応えられる供給余力を持つのは中東しかない。IEAのビロル氏は「35年には中東産原油の9割がアジアに向かう。アジア諸国は中東産油国と外交・防衛分野を含む、包括的な関係構築を考えなければならない」と予言する。

9月21日、イラク南部に石油資源開発の渡辺修社長の姿があった。マレーシア国営石油会社ペトロナスと取り組むガラフ油田の生産開始を祝う式典が開かれたのだ。
長い国際的孤立と戦乱の下にあったイラクは外資導入による原油増産をてこに復興を急ぐ。「我々は世界の十指に入る豊かな富を持つ」。出席したイラクのマリキ首相に、渡辺社長は「高い開発ポテンシャルを持つイラクは今後も最重要の投資先だ」と応じた。
東日本大震災で原発比重が下がった日本。一度は落ち込んだ中東への原油依存度は再び80%を超え、石油危機前の水準に戻った。こうした中で生産が始まったガラフ油田は、中東との関係強化の新たな橋頭堡(きょうとうほ)となる。
激しさ増すグレートゲーム
日本を圧倒するのが中国だ。イラクでは中国石油天然気集団(CNPC)など国営石油会社が、超巨大油田を含む、4油田を開発・生産中だ。
「とにかく案件を集めてくるんだ」。北京のCNPC本社では、海外担当社員に檄(げき)が飛ぶ。中国の国有石油3社が12年に石油開発に投じた金額は500億ドル超。米欧メジャー(国際石油資本)を大きく上回る。
9月11日、カザフスタン西部のカシャガン油田が生産を始めた。カスピ海沖に位置する同油田は過去30年に世界でみつかった油田で最大級。この権益をCNPCが取得した。米コノコフィリップスが本国での生産を重視して撤退したチャンスを逃さなかった。
グレートゲーム。19世紀から20世紀にかけて英国とロシアが、中央アジアや中東の覇権を巡って繰り広げた抗争をこう呼ぶ。シェール革命でも中東依存に逆戻りするアジア。石油を巡る現代のグレートゲームは中国やインドが参戦し、一段と激しさを増している。
[日経産業新聞2013年10月10日付]
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